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Joint 3D GeoInfo conference and EG-ICE workshop 2024 参加レポート

皆さんこんにちは、EukaryaでR&Dグループのリーダーを務めている馬場です。(Twitter:@ba_hideba)(GitHub:@HideBa
現在オランダの大学院で研究をしており、主食がじゃがいもに変わりつつあります。
先日Eukaryaを代表して、2024年7月1日〜5日に開催された「Joint 3D GeoInfo conference and EG-ICE workshop 2024」に参加してきました。
このレポートでは、カンファレンスの概要、主な学び、そして当社の今後の技術開発に活かせるポイントについて共有します。

カンファレンス概要

3D GeoInfoは、3D都市モデルデータに関する最新の研究と技術を扱う国際的に重要なカンファレンスです。
今年で19回目を迎えるこのイベントは、都市空間を3Dデータとして扱う技術発展を目的としています。(今年は第31回EG-ICE国際ワークショップと共同で開催されました。)

開催情報

  • 日程: 2024年7月1日〜5日

  • 場所: スペイン、ビーゴ

  • 主催: ビーゴ大学

主要なトピック

  • 3D/4Dデータ取得およびセンシング技術、分析、AI/機械学習

  • BIM、デジタルツイン、スマートシティ、スマートインフラ

  • 3D/4D地理情報の応用(3D屋内外ナビゲーション、都市計画、土地管理、災害・リスク管理、エネルギーモデリング、施設管理、モビリティ、アクセシビリティなど)

会場の様子

会場は、ビーゴ大学の会議室で行われ、たくさんの研究発表が行われました。
途中のコーヒーブレイクでは、お互いに研究内容についての情報共有をしたり、各国の3D都市モデル利活用の事例をディスカッションしたりしました。
カンファレンスには、私が現在学んでいるデルフト工科大の先生たちもたくさん来ていました。

発表された論文について

今回のカンファレンスでは、3D都市モデルデータに関する研究や技術開発において、いくつかの傾向が見られました。
数年前までは、2021年にCityGML Version 3.0が公開されたり、CityJSONに関する論文が2019年に発表されるなど、3D都市モデルを表現するためのデータフォーマットについての議論が盛んに行われてきました。
一方、これらの発表を機に、データの仕様策定に関する議論は落ち着きつつあり、今年の発表では、測量結果をこれらのデータフォーマットにどう落としていくかや、それらのデータを使ったユースケースに関連する論文が多かった印象です。
以下に、特に印象に残った論文をピックアップし、要旨を紹介します。

Filling holes in LoD2 building models

この論文は、今回のカンファレンスのBest Paper Award(最優秀論文)を受賞しました。
LoD2の都市モデルにおいて、自動的に穴(建築物モデルで言う一部の壁が欠落しているイメージ)を埋める新しいアルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムは、

  1. 前処理:トポロジーエラーの修正と疑似穴の識別

  2. 穴の検出:境界リングの検出と抽出

  3. メッシュ再構築

の大きく3つのステップを用いて穴の空いた3Dオブジェクトの修復をすることができます。また、従来手法と比較して、もとの3Dオブジェクトの形状をできるだけ維持した状態で穴を埋めることができます。

各工程の図(論文内より引用)

そもそもこのアルゴリズムってなんの役に立つのか?

話は少し脱線しますが、都市空間を測量してからソフトウェアで扱える状態にするには沢山の工程があります。以下の図は、測量結果が実際の3D都市モデルデータとして利用されるまでの大まかな流れを表しています。この中で、測量結果をシステムで利用するために、点群データをサーフェース表現のデータへ変換する必要があります。

都市モデルデータを扱う工程イメージ

💡 点群データとは?
点群データは、3D空間内の多数の点の集合で表現されるデータ形式です。主にレーザースキャナー(LiDAR)や写真測量によって取得されます。点群データは、3D都市モデルを作成する際の基礎データとなりますが、そのままでは人間が直感的に理解したり、コンピュータで効率的に処理したりするのが難しいため、通常はサーフェース、ソリッドデータなどに変換して利用されます。以下は、点群データ表現の例。

点群形式の例(Wikipedia)



💡 ソリッドデータとは?
ソリッドデータは、3D空間内の面(サーフェース)によって対象物の形状を表現するデータ形式です。(プリミティブ形状を集合演算によってモデリングする場合もある)ソリッドデータは、点群データを元に処理して得られることが多く、3D都市モデルの主要な表現方法の一つです。ソリッドデータは3D都市モデルの視覚化や解析に広く用いられ、CityGMLやCityJSONなどの標準フォーマットでは、主にサーフェースを基本とした表現が採用されています。

ソリッドデータの例(PLATEAU VIEW 3.0)

さらにこの工程の中で重要な概念がトポロジーです。

💡 トポロジー(位相幾何学)とは?
トポロジーとは、「何らかの形(かたち。あるいは「空間」)を連続変形(伸ばしたり曲げたりすることはするが切ったり貼ったりはしないこと)しても保たれる性質(位相的性質または位相不変量)に焦点を当てたもの」(Wikipedia)で、空間の関係性・繋がりを表す概念です。例えば、建築物同士が隣接しているか、そもそも建築物を表す3Dオブジェクトが現実空間を表すものとして有効かどうかなどを表します。トポロジー的に有効な3Dオブジェクトであるためには、サーフェースが欠落しておらず体積を持つオブジェクトである必要があります。(現実空間に体積を持たないものは存在しないため。)

点群データからサーフェースモデルを構築する際、トポロジー的に無効なデータが構築されるケースがあります。この研究では、そうした欠落したサーフェースを自動的に補完するアルゴリズムを提唱しました。これにより、測量されたデータを機械処理可能なデータ形式へ変換する過程での問題が軽減され、日照シミュレーションや洪水シミュレーションなどその先のユースケースへつなげていくことが可能になります。
この発表だけでなく、機械学習を利用した点群データの分類や、屋内空間のナビゲーションにCityGMLを利用する事例、3D都市モデルを利用した建物のエネルギー効率分析など、多方面に渡るユニークな研究発表が見られました。

Eukaryaの今後の技術開発の方向性

これらの研究事例をふまえて考えると、PLATEAU VIEWの構築を実現してきたEukaryaとしては、次のステップとして、CityGMLやCityJSONなどのデータフォーマットとして表現されたデータをいかにデータベースなどに格納し、柔軟に利用できる配信基盤を構築していくことが必要だと考えられます。
例えば、ドイツのミュンヘン工科大学が主導している3DCityDBなどが先行研究としてありますが、世界的に見てもPLATEAUほどの大規模かつ複雑な構造のデータのデータベースに格納し、更新や柔軟なデータ配信を実現している事例は多くありません。今後は、これらの3D都市モデルをデータベースで格納し、より柔軟に利用できる基盤を構築していくことや、配信されるデータをブラウザ上で美しく表現していく手法の開発を通して、私達のビジョンである、「すべての情報を保存する、表現する」の実現に向けて歩んでいきたいと思います。

2025年3D GeoInfo日本開催

これらに加えて嬉しいニュース があります。今年開催された第19回3D GeoInfoに続き、第20回3D GeoInfoが2025年日本で開催されることが決まりました!!!これは、Project PLATEAUを始めとした、日本の3D都市モデル利活用の取り組みが世界的にも評価されている現れでもあり、来年はより先進的な研究成果を私達Eukaryaからも日本開催の場にて発表できることを目指しています。

開催情報

  • 日程: 2025年9月

  • 場所: 日本、千葉県

  • 主催: 東京大学柏キャンパス

2025年日本での開催決定が発表された様子

最後に

今回の3D Geoinfo Conferenceへの参加は、3D都市モデルにおける先進的な研究を知り、今後のEukaryaの研究開発の方向を決める学びの深い場となりました。
これからも、世界の先進的な研究を学びつつ、私達の研究開発成果を社会に還元できるよう、Eukaryaの取り組みを進めていきます。

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