絶対に好かれるガールと絶対に好きにならないボーイ

 彩城美尾。この名前を知らない人はこの学園にいない。知らない場合、存在を消されると言ったら過言だが、どうしても目にしてしまう、耳にしてしまうその名前は僕の隣に座る彼女のことを指している。平たくいうと彼女はとてもモテるのだ、学校中の人間から告白されまくって、それを断り続けている、今日で連続327日目になる。お前いちいち数えてんのか、キモいなと思った人は見当違いで、数えているのは僕ではなく彼女自身、しかも全校生徒が朝一番に目にするであろう、学園の玄関にある黒板にサッカー部の得点者ランキングと肩を並べて記入してある。

 なんでそんなにモテるの?と聞いてみたことがある。僕以外のすべての、もちろん担任、女子生徒も含むクラスメイト全員が告白をすませ、フられたあと自分だけ一向に好きになりそうな気配もなく不思議だった。一人ひとり異性の好みは違うだろうに、男子だけならまだしも女子、年代の違う先生諸君にまで好かれるのは一体...

 そして彼女の口から知らされた事実に僕は悲しくなった。生まれつき見た相手の好みの容姿、声色、性格、になって見えるそうだ。好みというのはアイドルとか俳優なみに手の届かないレベルの容姿ではなく、こんな相手が理想的だなぁ、というストライクゾーンにはまってしまうようで、付き合いたくなるのもうなずける。ただ本人は誰からも好まれる生活に辟易していた。本来の自分を誰にも見てもらえていない、誰にでも優しくされてあまり多くのことをやらせてくれない。少しでも嫌われるよう、書き始めた嫌味な内容の黒板もあまり効果がなかったようだ。

 話をきいて、自分が彼女を好きにならない理由もわかった。というか生まれてからの1番の謎が解けた。なぜ誰のことも好きになれないのだろうと思ったが、僕には彼女が鏡写しになった自分にしか見えない。ようは自分のことが好きなナルシストらしい。綺麗な筋書きだったら僕だけに彼女の本当の姿が見えていて、本当の恋をするみたいな話になるだろうが、この場合は違った。

 「最後に君みたいな人に会えてよかったよ」と言われた、やはり自分は素晴らしい、この世のすべての人を虜にする女にさえ認められてしまったのだから。

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