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雨に打たれ

 私は雨が好きだ、冷たい雨が好きだ。
 とつとつと雨が天井をたたいている。寒さに耐えるように膝を抱えてうずくまる、私と違ってとなりの女の子はいつも明るく、あったかい。くっついていると体温が伝わってあたたまるのでできるだけ近くにいようと思う。何せ今日は突然の雨、彼女に連れ出されたおかげでなんの対策もしていなかった。このくらいの事は許してくれるよね?

 彼女との会話でやはりこの倉庫で雨宿りをしながら助けを待つのが賢明だ、という結論に至った。雨の日は好きなんだけど、かなり危険。私たちの敵は雨の時に現れる、そして雨が降るところにだけ存在できる。安全のためこの倉庫で待機している。助けを呼んでから1時間が経とうとしていた。

 車がやってきた、ふらつくような運転で私たちのそばに止まる。中に人が入っていて定員はあとひとり、私は彼女に帰ってもらうことにした。背中を押してあげると、彼女は中にひきずりこまれ、車は雨の中へと引き返した。

 実は彼女には能力があって、それを頼りにして先に帰ってもらった。戻ってこずに彼女だけ助かる未来もぜんぜん悪くない。けど彼女は帰ってきてくれるんだろうな、とても優しい人だから。

 おかえり、とだけ言って繋いだ手はとてもあたたかい。

 雨の中走り出した。しとしとと雨は冷たくしみる。彼女の右手をしっかりとつかみ、離れないように気をつける。このまま進み続けると思っていた。敵から攻撃を受けたとわかったのは、進み続けていた私の足、その片方が消えて無くなっていたときだ。瞬間私は左腕を切り落とす、彼女だけでも助かってほしいな。

 なにもできずその場にしゃがみこむと敵はゆっくりと私を飲み込んでいく、敵意のない相手には荒っぽい手段は取らないのだろうか。その間、私は喜びを感じていた。彼女に気づかれないように腕を切り落とせたこと、手際の良さに自分でも感心する。雨音にも助けられたのかな、音をかき消してくれるし。やっぱり私は雨が好き。

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