一杯のために
不要な記憶が消えたなら、いつまでたっても成長しない
嫌なことを繰り返す、繰り返すたびに記憶から消す
ラーメンはやっぱり家系に限る、ほうれんそうのトッピングがすきだ。濃厚なスープが絡まる麺をすする。いつまでも食べていたい、そんなふうに思える一品だった。食べ終わってしまうと、口寂しい、まだ食べたい...そうだ、〆にライスでも頼もうか。しばし待つとしよう。
テレビのニュースはほとんど見ないが暇つぶしにはちょうどいい。芸能人の浮気やスキャンダル、感染者数の増加などではなく、殺人の速報が流れていた。ついさっき見つかった死体、包丁で腹部を刺された、とある。どんなニュースがきてもやっぱりつまらないなと思っていると、ライスが来た。こんなに美味しく白米を食べれるなんて、罪深い。
店を出て家に着くと様子がおかしい、もしかしてさっきのニュースの殺人って同じマンションの住人だったのか?扉を開けると妻ではなく警察が出迎えてくれた、事件の捜査だろう、勝手に部屋に入るのはどうかと思うが、まあ事件には関係ないですよ、とでも証言してやろう。
「あなたを殺人の容疑で逮捕します」
そう言われて思い出した、俺は殺したんだっけ、妻を。いつもいつもラーメンを食うと文句をつけてきやがる。健康とかどうでもいいだろ、美味いもんが食えりゃ。
この世界では記憶を消せる、妻を殺したことも、記憶を消せることも記憶から消した。おかげで最後の一杯を楽しめたよ。
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