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窓を開けられるようになるまでに

朝、家中の窓を開け、風を入れる。
揺れるレースのカーテンが心地いい。

こうして窓を開けられるようになったのは、つい最近のこと。


病気で大学を中退して、実家に帰ってきた当時の私は寝たきりだった。

体の病気ではなく精神の病気だけれど、体に支障が出ていた。
ひたすら睡眠を欲していた。

起きていることができず、窓は開けられない。洗濯物すら取り込めない。
食事は仕事へ行く母が作り置いてくれたけど、皿洗いもできなかった。

宅配も受け取れない。
ある時、しつこくチャイムを鳴らす来客があった。
「郵便でーす」などと言いながら、鍵のかかっている玄関ドアを開けようとガチャガチャと音を立てる。
私は居留守を決め込んだ。

一旦は帰ったようだったけど、私が飲み物でも取りに行ったのか台所にいた時、再びチャイムが鳴った。

なんだか恐怖を覚えた私は、その場にしゃがみ込んだ。
するとベランダの方に物音が移る。

息を殺していると、「バキッ」とガラスを割る音がして、ガラス戸を開けて入って来る気配が・・・!

空き巣だ。居留守居る巣なのに。

入って来られたら困る!と思った私は、とっさに「何ですか?」と空き巣の方へ出て行った。
すると空き巣は踵を返して逃げて行った。

今思うと怖い。よく出て行ったなと思う。
刺されてもおかしくなかった。

でも隠れていて見つかる方が怖い気がしたし、とにかく侵入を止めなきゃという気持ちでとっさに動いてしまった。


それからしばらく気持ちが塞いだし、さらに窓を開けるのが怖くなった。

閉め切っていると部屋がカビた。

寝ている時は窓を開けられない。
それは今もそう。

でも最近は、日中に起きていられるから、窓を開く。
ずっとずっと寝てばかりだったのが、今は起きて活動できている。

こうして窓を開けられるようになるまでに、10年以上かかった。


いつか仕事をして家を留守にできる時は来るだろうか?
あと何年かかるだろうか?

今は想像できないけれど。



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