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現金自動預払機が設置された話

 クランタン州南部のグアムサン郡のヌンギリ地区で8月15日に銀行の現金自動預払機(ATM)が設置されたそうです。

 同地区にはこれまでATMがなく、現金を降ろすのにわざわざ往復50キロの村まで車でいかないといけなかったそうで、初めて設置されたATMに住民が喜んでいると報道されました。

 地元には銀行代行業をしている雑貨屋があるとのことですが、1人あたり1か月300リンギしかの取り扱いができないとのことで、これまで相当不便だったらしい。

 ボルネオ島のサバ州やサラワク州からもこういったニュースが時折流れます。かなりの山奥の村というか町では現金を引き出すのが難しい。片道1時間以上もかけて現金を降ろしにいかないといけないため、住民がATMの設置を当局にさんざん陳情した挙げ句にやっと設置されたというお話をときどき聞きます。

 今回のグアムサン郡はトラやヒョウが出るような森林がほとんど覆っている地域で、その森林や山間に集落があります。集落がある程度まとまったところが町というか村になるのでしょうが、そもそもそこにたどり着くまで結構な時間がかかる。道がなく、川伝えでしかいけないようなところもある地域なのです。

 そういったところにATMを設置したというのは、やはりニュースなのでしょうが、住民は喜ぶ一方、大変なのはやはり銀行でしょう。毎日現金を入れる作業があるはずで、現金を運搬する車は毎日この不便な地域に現金を運ぶ必要があります。ジャングルが多いところを走るので、強盗に狙われる可能性もあり、銀行にとってはリスクが大きいかもしれません。

 マレーシアはいろんなことが理由なく遅れることが多いですが、ATMが一つしかないとなると、この現金を入れる作業が滞るとすぐさま支障が出るということにもなります。そもそも一つしかないので、周辺住民がこぞって使い始め、現金はすぐに枯渇するに違いありません。また、現金降ろすのに並んで待つということも発生するでしょうし、そうなると「現金を降ろすのが明日になる」か「やっぱり遠い村で降ろそう」ということにもなるのではないか。しっかりとメンテナンスすればいいですが、マレーシアではよくあるように「ATMはあるけど動かない」ということにもなりかねない。その後に発生するイライラを考えると、設置されたことが本当によかったのかどうかは、まだ言い切れないのではないか。

 一方で、マレーシア全体では電子決済化がかなり進んでいます。クアラルンプールではもはや現金はもたなくても生活できます。そこかしこにATMはありますが、ほとんど利用しなくても生活はできるのです。そのうち都市部ではATMはなくなるのではないでしょうか。

 ただ、地方は別。僕の住むクランタン州では電子化はここ数年で少しずつ進んできた感じで、完全電子化はおそらく将来も難しいのではないか。銀行はいつも人が並び、まだまだ現金払いが主流です。電子決済の「タッチ&ゴー」というのがありますが、これだって使えるところはセブンイレブンなどチェーン店のみで、小さい店はやはり現金というところが多いのです。

 都市のコタバルでさえもこういった状況なので、ジャングルの中にある今回報じられた町のようなところは電子化どころではないのでしょう。そもそもネットの接続や電気の安定供給も怪しい。そうなるとやっぱり現金社会で、やはりATMで現金を引き出す必要があるということになるのでしょう。

 一つの国の中でこういった格差が激しいのもマレーシア。マレーシアは高所得国になりつつありますが、地方は取り残されています。2023年のクランタン州とクアラルンプールの1人あたりの国民総生産(GDP)は前者がわずか1万6836リンギ、後者は13万1038リンギ。これだけの開きがあるのです。クランタン州はつまり、月1403リンギ(約4万7000円)で最低賃金(1500リンギ)以下ということなのです。

 この州はほとんど農業で、仕事がほとんどない州でもあり、州政府がしっかりやっていないということなのですが、こういった州だと逆にお金があまり動かないから現金社会なのでしょうか。それとも保守的な地域のために電子化が進まないということなのか、そのあたりはよくわかりませんが、あまり電子化が進んでいない州というのは、貧困層が多いというのも大いに関係がある気がします。それはスマホやコンピューターをもっている人が少ないからということにもつながっているのでしょう。

 電子決済か現金決済か。いずれも一長一短がありますが、僕としてはできる限り、現金をもたない社会のほうがいい。ATMでさえも、そのうちなくなってしまったほうが銀行としても経費削減になるし、メリットのほうが多い気がします。この州が完全電子化になるにはいつになるのか。

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