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マレーシアは英語が通じる?通じない?

 マレーシアでは英語が通じると思われていますが、果たしてそうなのでしょうか。長らくイギリスの植民地だったので、英語は確かに通じてはいるようですが…。

「マレーシアは英語が通じる国ですよね」

 という質問をたまに日本人から受けます。マレーシア滞在歴約20年の僕にとってこの質問の回答はすんなりYesとは言えず、少し戸惑うところがあります。

 世界各国の非英語圏での英語の堪能さを毎年調査しているEFの英語能力指数なるものがあります。これによるとマレーシアの2021年の点数は562点で世界ランキング112か国中28位。アジア諸国内のランキングで3位で、やはり指数からみると「英語は通じる」のでしょう。(ちなみに、日本は78位で、英語能力は低いとの結果です)

 確かに首都クアラルンプールやペナン、マラッカなど外国人観光客がよく行くところは英語は通じます。また、会社のマネージャークラスは英語を話す人も多く、タイやインドネシアと比べても比較的英語でのコミュニケーションが容易であることから外国人投資家がマレーシアに拠点を置く長所にもなっています。

 イギリスの植民地が長かったことから1957年の独立直後は英語での教育が主流でした。このため、1960年代~1970年代はじめまでに初等学校や中等学校で教育を受けた世代(つまり、今の60歳以上の人たち)の多くはマレー人であっても英語で話すほうが流暢という人が結構います。そういった方々は政府の要職や会社の経営陣になっていたりもしており、外国人からみると「英語が通じる国」という認識につながっているのでしょう。

 しかし、上記のファクターがあるにもかかわらず、どうも僕の中で「マレーシア=英語が通じる」という認識にはつながらないのです。

 クアラルンプールでは確かに英語を話す人は多いです。でも、それも世代によって、また地域によって大きな差が出てくるのも事実です。

 例えば、マレー人や華人の20代や30代はもはや英語は話せない人が多いと見ていいでしょう。クアラルンプールの繁華街で外国人がよく来るブキビンタンで英語を話せない人はあまりいないとは思いますが、そこから10分も離れたモールでは英語を話せないスタッフはわんさかいます。

 クアラルンプールの自宅近くのモールの時計屋に以前行きましたが、そこで対応してくれた華人の若い子は英語が話せませんでした。マレー人の若者の間では特に顕著で、クアラルンプールの国際的な都市でさえも英語がままならない人も多い。

 クアラルンプールでこの状態なので、地方にいくとさらに通じません。特に外国人がほとんど来ないようなところは全く通じないといったほうがいいでしょう。僕は東海岸に住んでいますが、ここでは日常生活で英語を使うことはありません。前に若いマレー人と話していたときにわからないマレー語単語(確か予算のBudgetだったと思います)が出てきて、英単語で代用しましたが、それすらも見事にわからなかった。そこまで英語が浸透していないのです。

 東海岸ではマレー人と華人どうしでもマレー語を使います。これは事情を知らない人から見ると、「当たり前なのでは?」と思いますが、クアラルンプールやペナンだと華人はマレー語が不得意なので、両者はマレー語と英語が多少混ぜて話します。なので東海岸での両者の言語は完全にマレー語。英語がまったく出てこないのです。

 また、どこの華人も華人どうしのコミュニケーションは人にもよりますが、英語が出てくることはほとんどありません。彼らは北京語や広東語を話し、それですべて完結できるからです。英語が入ってくる余地が日常生活ではないことも多い。ただ、華人はマレー人に比べて英語を話せる人は多い気がしますが。

 さらに、深刻なのは、マレー人と華人の若い人の間ではほとんどといっていいほどコミュニケーションがありません。40代以上の世代は英語でお互いコミュニケーションを取ることが多いのですが、それが世代が下るにつれてだんだんとなくなってきた。英語が介在する余地がないのと、華人はマレー語はある程度「学校マレー語」を話せますが、マレー人とは話さなくなっているので、ますます公用語でさえも使えなくなってきている。

 これはある意味でマレーシアにとって危機であると感じていますが、肝心の政府がわかっているのかわかっていないのか。。。

 これはマレー半島でのお話ですが、一方で東マレーシア(ボルネオ島)ではマレー半島よりは英語は通じるといった方がいいかもしれません。村落の教会(ボルネオ島はキリスト教徒が多い)でも英語のミサがあるので、ある程度は通じるのでしょう。でも、インドネシア語やタガログ語のほうが通じたりするので面白い。サバ州とサラワク州では1970年代まで英語で教育されており、英語は今でも準公用語と位置付けられています。法律文書も英語で出てくることも多く、それだけ英語話者が多いということなのです。

 つまり、マレー半島や東マレーシアでも都市部と地方、出身民族、世代によって通じる通じないがマレーシアでは激しいのです。

 そのため、「マレーシアは英語が通じる国ですよね」という質問を受けてもYesとはなかなか言いづらい状況はご理解いただけたかと思います。「クアラルンプールのブキビンタンのモールでは英語は通じますよね?」という質問なら間違いなくYesという回答はできますが。。。


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