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マレーシアという平和国家

 マレーシアに住んで20年ばかりが経ちますが、昨今の世界の状況をみていると、マレーシアという国は実に平和な国なんだなあと最近つくづく感じるようになりました。

 僕には30年来のロシア人の友人がいます。高校時代からの付き合いです。ソビエトが崩壊してから少し経った後に知り合い、僕が大学に入ってからは年に数度はモスクワで会うようになりました。

 彼とは政治から宗教などさまざまなことをこれまで話してきました。それは僕が国際関係学を勉強してきたこととも関係し、かつてスラブ諸国の研究もしていたことからもロシアという国にも興味があったためです。

 ここ10年ぐらいはソーシャルメディア上で話し合うようになり、互いの意見交換はいまでもやっています。2014年にロシアがクリミアを併合したときもそんな話になり、「ウクライナはロシアとは切っても切り離せないんだよね」という言葉が今でも記憶に残っています。

 皆さんご存知のとおり、ロシアは現在ウクライナを侵略中です。そのことについても彼とはいずれ話そうと思っていたのですが、検閲も心配してあまり政治的なことはメッセージで残しておかないほうがいいだろうと思い、黙っていました。そんな矢先に「部分的動員令」がロシアで発せられました。「これは彼にとっても相当まずいのではないか」と思い、メッセージを即座に送ったのです。すると、

 「状況は日に日に深刻化しており、近くロシアを離れる」

と返信がありました。すぐに返したのですが、数日後にメッセージが再び来ました。

 「〇〇○○(国名)にやっと来れた」

と話し、なんとかロシアは出られたそうです。航空券をやっと手に入れて出国したのだそうですが、奥さんも子どもも置いてきたようで、今後をどうするのか僕も考えるようになってしまいました。

 徴兵制があるロシアでは確か18歳ぐらいになると訓練を受けなければなりません。ただ、彼の場合はロシア最高峰の大学に行ったので、それは免除されました。今回の動員令でも対象にならないのではないかと思っていましたが、どうも軍事訓練を受けていない人も徴集されるとの危惧が高まっているようで、男性はみな国を離れているのだそうです。

 彼はある国のある町に現在いますが、さて今後どうするのか。この戦争が終わったとしても「逃亡した」というレッテルを貼られ、帰国したとしても逮捕されるのではないか。となると今回の出国は彼にとって事実上の亡命ということになってしまう。国を離れた人は相当数に上り、これは大量の避難民(というか政治亡命)ということにもなるのでしょう。60~70年代にソビエトが東欧諸国に共産主義を押し付け、多くの人たちが西側へ移って行った時と同じような状況になっているのではないか。かつてこの西側に移っていった人たちは結局、共産主義が崩壊するまで国には戻れず、海外で客死した人も多い。

 彼にとってはもはや短期的な「逃亡」と考えず、もはや10年以上を見越した移住を考える時期でもあると思います。そんなことをメッセージしましたが、いま時点では今後の定住先を探しているのか、返事はありません。彼もウクライナ侵略については思うことがあるでしょう。リベラルな彼にとっては侵略については反対しているのかもしれません。ただ、2014年の言葉も気になっているので、もしかして賛成しているのかもしれませんが、実際こういった形で自分の身に危険が迫ってくると賛成も反対も言ってられなくなったという方が言い当てているかもしれません。戦争に巻き込まれまいと必死になっている姿を見ていると何か助けてあげたくなっています。

 実は彼が「逃亡」した先の町には偶然にも僕の古い友人がいます。その彼に連絡したら、数年前に米国に移って農民をやっているとの返事が。ハリケーンに遭って大変なことになっているとの返事でした。その弟はその町にまだ住んでいるようなので、いずれ連絡するとしても、しかし、世界のどこかしこも大変なことになっているんだと実感した次第です。

 翻ってマレーシアを見ると、実に平和。年末までに洪水が発生することが予測されていますが、そんなことは上記の状況を鑑みると小さいことのように見えてしまうのです。それすらも今起こっているわけではなく、選挙をいつにするかといった話しばかりが新聞を踊っています。

 マレーシアという国はマレー人、華人、インド人が大半を占め、どの民族も人口の過半数を占めないことからお互いが協力しあって国を運営しています。これが実はかなり奏功し、軍事クーデターも起こらず、反乱や騒乱といったものがほとんど起きていない。クーデターが起きて華人が逃げてしまったら、この国はまず立ち行かなくなるほど華人の経済力は強いし、その点も政府はうまくコントロールしているんだと思います。

 近隣諸国とも友好関係を保っており、中国とはかなりの距離がある。陸続きではあるものの、間にベトナムという大国があるため、中国が直接侵略してくるというのは現実的ではありません。かといってインドネシアやフィリピンの隣国が領土侵略してくるというのも現実的ではなく、この国ほど侵略されることにほど遠い国はないのではないでしょうか。
 
 いずれにしても、こののほほんとしたところにいるとつい平和ボケしてしまいそうです。しかし、そんな悠長なことは言ってられません。世界では惨劇が相次ぎ、平和な国にいる人間はこういった惨劇に対してどう対応していくべきなのか。何千万の人間がいて何のアイデアもない、何もできないということはありえないと思います。少しでも平和な世の中にするために小さなことでも行動は起こさないと。

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