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ラマダーンが終わりました。

 マレーシアでは21日に断食月(ラマダーン)が終わりました。しかし、これはいったい何のためなのでしょうか。
 
 ラマダーンは、インパクトが強いためか、断食とイコールになっている趣がどうもあります。イスラーム教徒からすると実はこれは少しずれています。確かにインドネシアやマレーシアのイスラーム教徒間でも、ラマダーン=断食との印象は強いのですが、実際はこの月は「慎み避けること」なのです。

 イスラーム教徒の義務としての五行の一つに「断食」とありますが、中田考『イスラーム入門』によれば、正確には「サウム」で、日本語に訳すと「斎戒」です。サウムの原義は「慎み避けること」で、ラマダーンのときは夜明けから日没の間は食欲だけでなく、性欲など一切の欲を断ち切る必要があります。これには喫煙も含まれます。以後、断食ではなく、斎戒と書くことにします。

 イスラーム教徒は原則、ラマダーン中に上記の斎戒をすることが求められています。ラマダーン中は静かに暮らすことがモットーともされており、エネルギーを使ってしまうため怒ることも極力避けようとします。公式な数字はありませんが、感覚としてラマダーン中は犯罪も少ない気がします。

 一方、ラマダーン中は病人や旅行をしている人、生理中の女性、妊婦は斎戒が禁じられ、のちにその日数分をしないとならないことになっています。
 
 イスラーム教徒の知り合いによると、ラマダーン中に「思わず食べてしまう」ことも実はあるそうです。そういった場合は破ってしまった日数分をさらに追加で欲を断てばいいことになっています。なんだかゲームのようですが、要は斎戒する日数が総合的に合っていればいいことになっているようです。

 また、ラマダーン中の昼間に性交をしてしまった場合は斎戒をやり直したうえで、破った1日につきイスラーム教奴隷1人を解放または奴隷がいなければ2か月連続の斎戒を行う必要があります。それもできなければ、貧者60人に両手1杯分の食事を施すことが課されています。イスラーム教はできない人に対しても否定はせず、「敗者復活」も認める寛容な宗教でもあるのです。

 また、『コーラン』ではラマダーン以外の斎戒もオプションとして推奨されています。月曜日や木曜日、満月の日、1日おき、特定の日などが勧められています。ただ、金曜や土曜日だけ、ラマダーンの明けの大祭の日、犠牲祭の日、その後の3日間の斎戒はそれぞれ禁じられています。

 会社のイスラーム教徒たちを見ていると、午前中は比較的活発に動いていますが、お昼を過ぎて午後3時から午後5時ぐらいにかけてがもっともきついらしい。そりゃそうでしょう、だいたい夜明けの午前6時前に食べ終わってからほぼ10時間は食べていないことになるので、どうしたってエネルギーが枯渇します。そのため、難しい仕事などはこの時間帯にはさせないことが賢明です。午前中に集中的に仕事をさせるなどの工夫がこの期間だけ必要になってきます。

斎戒はなぜする?

 それではこれら断食も含めた斎戒はなぜするのでしょうか。
 
 これまで会ったイスラーム教徒たちは口々に「貧しい人たちが食べられない思いを感じるため」と説明します。確かに『コーラン』を読むと貧しい人たちに対して配慮しようとの文言が続きますが、それだけではない気がします。

 結論からいうと、信者の間の連帯感を高めるためだと思います。

 このラマダーン期間中は全世界のイスラーム教徒約17億人が一斉に斎戒をします。地域によって日中の長さは違いますが、少なくとも信者がこの期間中に同じ行為を全世界でしているというのは、ほかの宗教にはありません。この約1か月に渡る苦行・修行を年1回みんなでやる通すというのは、信者間の連帯感にもつながっていくといってもいいでしょう。

 キリスト教の場合はクリスマスや新年といった日に一斉に祝いますが、それは一日だけ。確かにローマ教皇がメッセージを送ったりしますが、仏教徒もなぜかクリスマスや新年を祝っており、そこにはあまりキリスト教徒間の連帯感を感じません。日曜日に教会に行かせることは一応は義務にはなっていますが、行かなくても別段裁かれるわけではありません。そういった観点から「ゆるい宗教」といってもいいのかもしれません。

 逆に、イスラームの創始者で預言者ムハンマドは、信者間の結束を強めるため、こういった義務行為を設定し、イスラームの教えを守っていくという方向にしたのかと思います。

 この全世界の信者の一斉斎戒で連帯感や結束が強いため、断食明けの大祭(マレーシアではハリラヤと呼びます)が年の大規模行事で、イスラームではラマダーンが中心となってカレンダーが動いているといってもいいでしょう。イスラーム教徒が、ヒジュラ暦の新年をほとんど祝わないのもそのためでしょう。

 僕も以前は断食をインドネシアで1か月間の断食をやったことがあります。午前4時ごろにごそごそと起き、朝食をたくさん食べてから、また寝て起きる。夕方の日没後に大量に食べ、その後にまた寝るという生活を1か月しましたが、これはなかなかきつい。その結果、4キロぐらい太りました。

 そもそも断食行為は人間本来の体内時計を狂わせる行為でもあり、あまり体にはよくありません。預言者ムハンマドもそれはわかっていたのでしょう。このため、病人や生理中の女性、妊婦さんにはさせないのは、そのため。健康な人にさせるのは修行のためでもあるのではないでしょうか。イスラーム教にはイマームなど宗教指導者はいますが、仏教の坊主や修験僧といった人たちはいません。

 イスラーム教徒全員に年に一回集団で修行をさせることで連帯感を高める。そういった意味合いがこのラマダーンにはあるのだと思います。そんな修行が終わり、家族や友人らと耐え忍んだことを祝う。それがラマダーンなのでしょう。


 

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