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Twitter2.0でなにが起こるのか

イーロン・マスクの大爆走が止まらない。

一昨日(11/27)のツイートでは、社外向けのプレゼン資料を投稿して「Twitter2.0」の全貌を明らかにした。

スライドに「The Everything App」とあるように、さまざまな機能を内包するスーパーアプリを目指す主旨のようだ。具体的なことは、くろますおさんのこちらのまとめツイートの方がわかりやすい(イーロンは他の人へのリプライでもさまざまなコメントをしているため、全部のツイートを拾うことが難しく、こうしたまとめツイートは大変ありがたい)。

さまざまな機能の実装が宣言される中で私が注目したのは、

・ショートムービー(Vineの復活?)
・長文投稿
・決済機能

この3つである。この3つだけでも、企業のマーケティングやインフルエンサービジネス、あるいは他のプラットフォーマーのビジネスに多大なる影響を与えることが確実視されるからだ。

それは、良い意味でも悪い意味でもである。

ツイッターが「タダ乗り」を許容していた理由

まず、良い影響は何かというと、ツイッター社自体の収益はかなり改善される可能性があるということだ。というのも、これまでツイッターが多くのユーザーに愛されながらも収益は芳しくなかった要因の1つに、ツイッターが他のプラットフォームへの送客マシンになってしまっていたことがあったからだ。

たとえば、私のこのnoteのマガジンは、読者の大半がツイッターのフォロワーである。ツイッターで興味を持った人がnoteにきて、面白いなと思ったらマガジンを購読してくれる。そして、読んだものが面白かったらそれをまたツイッターで拡散してくれて、さらに読者を呼び込んでくれる。このサイクルにより、クリエイターとnoteは収益を得ることができるのだ。しかし、皆もうお気づきかと思うが、これだけの貢献をしているにもかかわらずツイッターには1円もお金が入ってこない

もちろん、たくさんのユーザーを集めればそこで広告ビジネスは成り立つのだが、ツイッターの広告は他のSNS広告と比べて、お世辞にも費用対効果が高いとは言えず(少なくとも自分が回したことのあるジャンルの話であるが)、とくに日本ではツイッターを匿名で目的別に使い分ける人が多いこともあって、属性によるターゲティングが難しかった。そんなわけで、広告ビジネスは年齢や性別、居住地といったリアルグラフを用いることができるメタ勢(Facebookやインスタグラム)に比べ、苦戦を余儀なくされたのではないかと思う。

そうなると、一般的な経営者であれば「他のプラットフォームにユーザーを流さずに、自分のところで全部完結させればええんでないの?」と考えるのが普通だ。おそらく、旧経営陣も考えたに違いない。

しかし、ここでツイッターはツイッターならではの壁にぶち当たるのである。それは、できることが増えれば増えるほど、ツイッターの最大の強みである「誰もが発信者になれるシンプルさ」を失いかねないということだ。

ツイッターにしか実現できなかった「フラットな世界」

これは私自身が、noteとTikTokでも発信をして嫌というほど体感しているのだが、とにかくツイッター以外のSNSは続けるのに「パワー」が要る。ちょっと移動時間の隙間の1分で発信するとか、寝る前にベッドの中から思いつきを発信するというようなことは他のプラットフォームではできない。だから、多少見ていてうんざりすることがあっても、なんだかんだでツイッターに帰ってきてしまうのである。代わりになる場所がないのだ。

そもそもツイッターの語源は「鳥のさえずり(短く取るに足らない情報の発信=つぶやき)」である。そのコンセプトゆえ、有益なことでなくても、誰もが発信者になれるという極限の敷居の低さを保つことができた。それが保てたのは、ひとえに140文字制限という仕様のためだったと思う。

つまり、長文投稿を許可したり、ショートムービーをフィーチャーしてリッチなコンテンツプラットフォームになると、途端に発信できなくなる人が増え(あるいは発信しても簡素なコンテンツは埋もれるようになり)、YouTubeやTikTokやインスタグラムのような発信者を中心としたヒエラルキーが形成される「よくあるSNS」に成り下がってしまう可能性があるのだ。

以前のnoteでも言及しているが、私はツイッターはITプロダクトの領域を超えた「発明」であると考えている。それはなぜかというと、情報の発信者と受信者が限りなくフラットに近いからだ。ツイッター以前の匿名掲示板もそうだったが、決定的に違うのは個々のアカウント(UserID)が起点になっており、匿名であっても「誰の発信なのか」が明確であり、それぞれのアカウントに「人格」が備わったことである。そんな場に10代の学生から総理大臣まで、さまざまな属性の人たちが入り乱れ「フラットに」交流できるという素晴らしさがあった。誤解を恐れずに言うならば、ツイッターは「弱者のためのメディア」だった。

その最大の長所が失われたときに、まったく新しいものとして受け入れられるか、ユーザーが離れるか、現時点ではわからない。

そしてイーロンマスクのTwitter2.0では、もう1つ重要な「決済機能」が実装される。今回のツイッター買収では暗号資産取引所のBinanceが5億ドルの投資をしていることが明らかになっており、決済に暗号資産が使われるのではないかと噂されている。もしそうなれば、AppStoreやGooglePlayなどの高いプラットフォーム手数料をとられずにクリエイターに報酬を還元することができるようになるかもしれない(11/30追記:…と思ったら、AppleがTwitterアプリの審査を通さないと言い出し、イーロンがキレてガチ喧嘩に発展しそうな模様)。

となると、たとえば私のこのnoteをnoteではなくツイッターに投稿して完結させることもできるようになるのだ。noteだけではない、TikTokやYouTubeやインスタグラムもそうなるかもしれない。

ツイッターとユーザー層が被るプラットフォームは?

しかし、これらのプラットフォームの中でも一番影響を受けるのは、やはりnoteなのではないかと思っている。なぜなら、TikTokやYouTubeの視聴者層はあまりツイッターユーザーとは被っていない気がするからだ。インフルエンサーのフォロワー数を見るとわかるのだが、登録者何十万人もいる有名YouTuberやTikTokerでツイッターのフォロワーが数百人しかいないという人は珍しくない。これは、見ている層が違うことを意味している。

一方noteは、noteのフォロワーが多い人の大多数がツイッターをやっており、ツイッターでも多くのフォロワーを獲得している。これは、noteが文字ベースのプラットフォームであり、同じく文字ベースのツイッターと相性が抜群に良いということと、そもそもツイッターがnoteの集客装置として機能しているという2つの理由があると思われる。

となると、そもそもツイッターで完結できるようになってもクリエイターがnoteを続けるには、特別な理由が必要になる。一番良いのは、note内の回遊でツイッターを通さない送客ができるということだろう。YouTubeやTikTokが強いのは、独自のユーザー層を獲得しており、他のプラットフォームを介さなくてもプラットフォーム内でどんどん視聴が増える仕組みになっているからだ。noteもそのようになればクリエイターは続ける意味がある。

あともう1つは、コミュニティのコンテンツの質を保つことである。イーロンのTwitter2.0に「危うさ」を感じるところがあるとすれば、マネタイズを強化することでいわゆる「商材屋」と呼ばれるような人たちに荒らされてしまうのではないか、というところだ。現状、ただでさえ怪しいコンサルや詐欺まがいの儲け話が横行し、毎日のようにスパムDMが飛び交っているので、ここにマネタイズ機能が実装されれば無法地帯になる可能性はある。

noteは上場準備のためだと思うが、一昨年あたりから怪しい情報商材系を一掃している。売上には大きなダメージはあったかもしれないが、そのおかげでプラットフォームの秩序は保たれている。

これまでの経験上、プラットフォームは「儲かる」と言われ始めるとやばい人たちが参入してきて、攻略され、場が荒れる傾向にあった。そこで制限を強めすぎてユーザーが離れてしまったプラットフォームもあれば、無法地帯になりすぎてユーザーが離れてしまったプラットフォームもある。非常にさじ加減が難しいのだが、企業ユーザーを中心に健全な世界観を保って生き残るという線はあるかもしれない。

あとは、個人的にnoteのUI/UXは素晴らしいと思っている(少なくともWeb版は)。Twitterの共同創業者がMediumというnoteと類似するプラットフォームを立ち上げて日本に参入するも成功しなかったのは、同時期に始まったnoteのUI/UXが日本人にとっては馴染みやすかったからではないかと思っている。編集出身の加藤さんが代表を務めており、cakesを起点に有望な作家を囲い込めていたのも大きかった。

だから、Twitter2.0で実装される長文機能のUI/UX次第ではまだどうなるかわからない。構想だけ聞くと良さそうに聞こえるのに失敗するプロダクトが多いのも、ITプロダクトあるあるである

そして最後に「今後の展望」になるが、

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