朝、目覚まし時計より先に起きれた日。
空気がひんやりと冷たくて、車の音はなく、鳥の囀りだけが響く。
空が真っ暗だったのに、ほんの少し光が差してきて、そのうちぼんやりと空が青くなっていく。
郵便配達のバイクの音。カコン、とポストを鳴らし、今日も我が家に手紙を届けてくれる。
誰もいない車両の電車。
早朝の通勤ラッシュは、誰の足なのか腕なのかすらわからない。何十人も集まれば、もっとやかましくてもいいはずなのに、私達は言葉を交わすことなく“他人”という概念を壊すことのないまま、電車に揺らされながら、それぞれの目的地を目指す。
誰もいない電車は、景色も独り占め。車掌さんのアナウンスも、私だけのために行き先を教えてくれる。聴いていた音楽は、なぜか耳に残るのだ。
雨上がりのコンクリートの香り
湿った道路。水溜りは日の光に反射し、濁りながらもキラリと光る。長靴を履いている日はわざと、その水たまりを踏んで歩く。
誰の足跡もついていない、タイヤの跡もついていない、そんな透き通った水たまりは特に、音を立てて踏み締める。
新品の本の香り。
お気に入りの本は、いつ読んでも主人公たちがイキイキと、私の頭の中で呼吸をしている。読み終えた後の感動は、その本のストーリーと、私の脳みそが作り上げた最高傑作の映画だ。
大好きな友人達と会った日。
一緒に笑い合える人達がいて幸せだなあと写真を観て浸る。“私”という主人公の心が、動くのがわかる。ああ、ちゃんと人間として呼吸しているな、と安心する。
好きな時間。
それは、私という人間と向き合い
揺れ動く心を感じた時かもしれない。
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