見出し画像

「残り花」  えとふみギャラリー No.10

画像1

                                                                           ( ↑ 油絵 F15号)
上野の森の中にある美術館を出た。いつもなら駅に向かって歩くのだが、今日は何となく右に折れて、行き交う人や緑の葉が生い茂る桜の樹、下草などを見ながら歩いていくと古い茶店が見えてきた。このお店も上野の歴史とともに暖簾をくぐるお馴染みさんを迎えてきたのだろう。店内はさほど広くはないがしっとりとした落ち着きがあり、こだわりのあるお品書きから、私は大好物のみつ豆を注文した。

何かこのまま帰る気にもならず、店を出て右手の方向の道を歩く。しばらく行くと右手にカーブする坂道があり、そのまま下っていくと不忍の池が見えてきた。

池にせり出した弁天堂を囲むように、ハスが池の淵まで迫って繁茂している。こんな光景を間近に見たのは初めてなので圧倒された。彼らは夏の間に精一杯背丈を伸ばしたのだろう、岸辺から溢れんばかりだ。もう9月に入り、今日あたりは風も爽やかで秋の気配が漂う。ハスの花を探すと、幾重にも重なる葉の中にちらほらと見つかった。つつましく清楚な花はとても美しかった。ハスたちの大饗宴も終盤を迎え、この幾つかの花たちは名残りの花なのだろう。

私は毎年、この時期に開催されている展覧会の作品を見に一人で来ているのだが、初夏の頃の池周辺の景色はどのような姿なのか、ぜひ見に来なければと思った。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?