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小説『僕のファーストテイク』

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"僕"なのに僕じゃない"僕"がいる。 西村一樹(にしむらかずき)はそんな自分に困っていた。自分自身が生み出した存在であることは、"僕"達との会話の中で気づいているつもりだ。 …
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2023年9月の記事一覧

【小説】[3]電話(『僕のファーストテイク』)

スッと体が動き、スマホに手が伸びた。間もなく職場に電話が繋がる時間だ。スヌーズにしていたアラームが何度も鳴り響く中でも動かなかった体。脚気検査や熱いものに反応する"反射"のような動きだった。

自分の意思とは違う動きに、また気持ち悪さを覚えた。
(誰だよ……この体を動かしてるの)

起きないと、とは思ってたが……。この状況の対処法を知らない僕は困惑していた。

動いたのはその一瞬。スマホを手に持ち

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【小説】[2]流れ込む映像(『僕のファーストテイク』)

遅刻が確定して、仕事のことは、もうどうでもよくなった。「職場も僕を"切る"ための良いきっかけだろう。」僕の中の誰か("僕")がそう呟いた。

(……んなわけあるかい)

僕はそう言い返した。すると、急に静かになり、僕の体は部屋の中を観察し始めた。天井や窓などを目が感知する。電化製品のノイズと外から聞こえてくる環境音。
動かそうとしても動かない体。自分の体なのに重い。

(息は……している……)

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【小説】[1]きっかけ(『僕のファーストテイク』)

暗闇……。元気なはずなのに、その先には希望を感じられない。

視点を変えれば、大したことではないことに気づく。だが、「この"僕"を救う方法は何があるだろうか?」と考えた時、僕にもわからなかった。

ーーピロリロリン♪(ポッポー)ピロピロ…♫

アラームが鳴る。
諦めてはいるが、念のためスヌーズにして止めた。

仕事に行ったとしても遅刻は確定。仕事に行く理由は、"生きるための苦痛"の軽減でしかない。

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