【小説】[2]流れ込む映像(『僕のファーストテイク』)

遅刻が確定して、仕事のことは、もうどうでもよくなった。「職場も僕を"切る"ための良いきっかけだろう。」僕の中の誰か("僕")がそう呟いた。


(……んなわけあるかい)

僕はそう言い返した。すると、急に静かになり、僕の体は部屋の中を観察し始めた。天井や窓などを目が感知する。電化製品のノイズと外から聞こえてくる環境音。
動かそうとしても動かない体。自分の体なのに重い。

(息は……している……)

生きていることがショックだった。
特に"そうした行為"をしたわけではないのだが、この状態になった時は、そう思ってしまう。

仕事用の"僕"は、もう出てくる気配がない。昔はこういう状態でも、その"彼"が出てきてくれていたため、特に困ることはなかった。
遅刻しての出勤は、怒られたり、嫌な顔されたりすることはあったが、数日経てばまた日常に戻る。
真面目に働いている人でも、そういう日は多かれ少なかれあるものだと思っていた。むしろ、他の人より元気な僕は、体調崩したり、遅刻したりすることは滅多になかった。


……だけど、"今"は違う。
この後のことを考える余力すら僕にはなかった。"物体"としての僕が寝床の上に横たわっているだけ。とても気持ち悪い時間が、僕を包み込んだ。

ただ耐えるしかなかった。
(いつまで……)

だが、僕の体はまだ恐怖を感じ取れたのだろう。職場の人が家に押し入り、無理やり僕を職場に連れて行く映像が頭に流れ込んできた。
(職場は僕を"切る"なんてことはしないっ……)

過労で救急車で運ばれ、入院したこともあったが、職場は僕の復帰時期ばかり尋ねてきた過去がある。
その時の記憶が、僕の重たい体を動かした。

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