【小説】[1]きっかけ(『僕のファーストテイク』)

暗闇……。元気なはずなのに、その先には希望を感じられない。

視点を変えれば、大したことではないことに気づく。だが、「この"僕"を救う方法は何があるだろうか?」と考えた時、僕にもわからなかった。


ーーピロリロリン♪(ポッポー)ピロピロ…♫

アラームが鳴る。
諦めてはいるが、念のためスヌーズにして止めた。

仕事に行ったとしても遅刻は確定。仕事に行く理由は、"生きるための苦痛"の軽減でしかない。
もう一人の僕は……この日は出てきてくれない。"彼"が機能してくれる時は、まだ社会で生きる道に繋いでくれる…が、その"彼"が疲れ果ててしまったんだろう。

(……終わったな)


この身体と付き合い出して20数年が経つ。うまく身体が動いてくれないことは、これまでも何度もあった。最初は、別の自分に入れ替えることを覚えた。もともとの自分を消して……。

消えてる時のことは覚えてない。なぜならそれは、"僕"じゃないから。

「ーーそれもお前だよ」

そんなことを社会では度々言われた。入れ替わった"僕"が言われないこと。その彼は、僕みたいに弱音を吐かない。弱音を吐けば、生き難くなるのを知っているから。

でも、彼は"僕"を知っている。だから、僕みたいな人がいれば、一緒に悩んだ。


未だに僕は、"僕"を使い分けられていないし、たまにどれが"僕"なのかわからなくなる。

『人生は一度きりだからね。"それ"を楽しむしかないんだよ』

"彼"は僕にそう言い聞かせ、"彼"は彼のまま、僕の前から姿を消した……。


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