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公演の観客が増えない理由 決定版。

「観劇人口を増やしたい」「舞台の魅力を一人でも多くの人に伝えたい」なーんて言っても新規のお客さまを増やすために何をしてるかと言うと、ほぼなにもしてない。いつものお客さまや知り合いが新しいお客さまを連れて来ることに100%頼ってる。

わかります。公演ってそういうものですよね。まず準備に忙しい。公演を準備するのは制作部が中心になりますが、出演者の予定や稽古の日程調整など舞台側を作るのが忙しいんです。観客のことは残念ながらほんの少しだけ後まわしになってしまうことが多いんですね。

多くの場合、広報は専任じゃなく制作兼任。地方や小さな公演では出演者が制作を兼ねることも。そうなると広報活動はさらに遅れがちになります。

専任じゃない人が広報活動するとどうなるか。まずまちがいなく内輪目線になっちゃう。だって内側の人だから「今回のウチの公演はココがポイント」みたいな視点で告知宣伝しちゃう。その言葉や写真は「すでに知ってるお客さま」にしか届きません。「舞台って観たことありますか?よかったら観に来ませんか」から始めなきゃいけないのに、知らない人には「私には縁のない話」と認識されてしまうんです。実にもったいない。

既存のお客さまに喜ばれるのはコアでマニアックな話題。一度も観たことがない人はそれを読んで(自分には全く関係ない世界だな)(自分は相手されてないな)いっそう敷居が高く感じられてしまう。宣伝告知すればするほど両者の「みぞ」が深くなっていきます。これから興味を持つかもしれない人たちを無意識に排除してしまう。ああ、なんてもったいない!

「いや、全然そんなつもりじゃないんで」と言われても、広報担当者の頭の中にいるのは既存のお客さま。観客の裾野を広げるには、「もしこのツイートが初めて新しいお客さまの目に触れた場合」を常に想定しておきたいですね。

ツイートを目にした未来の観客が(もっと情報を知りたい!)と思ったとき、スムーズに公演情報にリーチできるでしょうか。決まりきった公演情報を毎回書くのもしつこいし…コアな与太話の最中にもスマートなリンク動線が確保されていると初めての人にも安心感が伝わります。

自分の身に置き換えて考えてほしいんですが「初めての人でも安心」「おひとりでも全然大丈夫」これを百回聞いたって不安や心配は消えませんよね。伝えようとすればするほど伝わらない。ちゃんと相手にわかってもらうには日々の姿勢や態度から感じ取ってもらうしかないんです。それが「伝わる広報」です。

内輪ネタや馴れ合い、常連のお客さまにしかわからない呼び名など、一部コアなお客さまにとっては興味深い内容ですが、そのたびに新規のお客さまを無意識に遠ざけていることに、ほんの少しでも気を配ることができるといいですね。

作家や演出家や制作が告知宣伝などの広報活動に携わるとき、無意識に既存のお客さまに向けて発信することが多いです。「うちのカンパニーのお客さま」「うちのカンパニーは観たことないけど観劇好きなお客さま」せいぜいそこらあたりまでしか対象として考えられていません。

しかし世の中には「舞台なんて一度も観たことがない」観劇の面白さをまだ知らない人が、まだまだまだまだまだまだ大勢いらっしゃいます。

たとえば選曲。たとえば原作。たとえば衣装。たとえば公演場所や時間。

はじめての人が興味を持ちやすく行きやすい公演を設計することで、新たな観客が生まれる可能性があります。観劇未体験の人に目が留まるようなポスターやチラシの掲出など、地道にタネを蒔き続ける。すぐに効果は上がりません。しかしいつまでも既存のお客さまや観客を呼べる出演者に頼ってばかりでは、公演のたびに不安定な動員になってしまうでしょう。

舞台本来の魅力に気付いて下さるお客さまとの出会い。お客さまと一緒にカンパニーも育つ。観劇人口が増えれば業界全体も盛り上がっていくでしょう。

コロナ前と同じことをしていては、いつまでも「戻りが悪い」と言い続けるしかないでしょう。コロナ渦中から地道にタネを蒔き続けたところは、ゆっくり芽が出てやがて花が咲くでしょう。そのときから始めても遅いんです。

タネを蒔いてから実を結ぶまでには、とても長い時間がかかります。わたしはカンパニーの広報活動をビジュアルコミュニケーションで支援しています。外部制作スタッフという意識を持って制作にダメ出しすることもあります。(話を聞いて下さってありがとうございます)これからも観客の裾野を広げるため一緒に盛り上げていきましょう。


「演劇制作マニュアル」財団法人 地域創造 2006年刊