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働くことに生きがいを求めて〜新h君物語物語。その4。

まだまだ、高校時代の話しが止まりません。
もうしばらくお付き合いください。

時は今から45年ほど前(笑)

高校2年の春から秋にかけてのお話です。
その年の春ごろから、中学時代の仲間がバイクをきっかにして、また昔のように集まりだした。
俺もその中の1人。5月ぐらいからつるんで走るようになり、5月の末に10人で奥多摩のツーリングに出かけた。その時俺は50 CCのヤマハのミニトレに乗っていた。でも、
ほとんどの奴が250 CC以上のバイクだったので、かなりのハンデがあった。みんなに遅れないように必死に走っていた。
奥多摩湖を巡る道は、実に気持ちが良かった。
体全体で受ける風の感覚と、山の中の澄み切った空気は、普段と全く違う別世界へと誘った。
つるんだ10人の半分以上が中学時代からの友だちだった。2、3人知らない顔もいた。しかし、いっしょに走っているうちに、その心理的距離も縮まっていった。
唯一ナナハン(750ccのバイクのこと)に乗っていた奴がいた。ナナハンに乗っているだけで、グループの頭って感じになっていた。
その後ろにロン毛の女の子が乗っていた。最初の休憩場でその日初めてヘルメットを外した。長い髪の毛を振り払って右手で前髪をかきあげた時、顔が見えた。その瞬間、俺は愕然とした。
うわっ、S子だっ!
なんでアイツがこんなとこにいるんだよっ!と。
S子は、中学時代、俺のことを大嫌いだと周りに言いまくっていた子だった。なぜだか理由はよくわからないのだが、中3の時、5組にいた子で、その5組の中に俺の小学校時代からの親友みたいな男がいた。その男に彼女は惚れていたようだ。
春の校内運動会の時に、5組の選手として出ていたそいつを、我々4組の連中がこぞってやじりまくったことがあった。
特に俺は昔からのよしみで、やじり放題やじった。その下品な行為が彼女の心証を著しく害したようだ。
それから、俺のことを目の敵にするようになった、と勝手に推測している。
校内で俺のことを見かけただけで顔色を変え、キッと睨みつけるような視線を送ってきた。

俺は、休憩場から一足先に発進した。嫌な奴が来てやがんなぁ、と最悪な気分のままバイクを走らせた。
しかしながら、何度かの休憩場でみんなと共に話しているうちにお互いに徐々に打ち解けていった。
事故もなく無事出発地点に帰り着いて解散する頃には、軽いジョークも混えた会話もできるぐらいの距離感になっていた。
あれほど俺のことを嫌っていたはずなのに・・・?
これも、バイク及びツーリングの力だったのかも知れない。

それから1週間もしないうちにそのS子から電話があった。
その内容は、自分の中学時代からの友人にK子と言うマブダチがいる。その子が、俺の中3の時のクラスにいたTと言う男子を好きだと言う。
付き合ってみたいと言っている。しかし、いきなりの勇気はないようで、まず4人でデートしてほしい。その手筈とダブルデートの男役として俺に手伝って欲しい、と言うものだった。
俺のクラスのTが女にモテるのは昨日今日始まったことではない。
またかよ、とは思いはしたが、S子との因縁もあり、その押される気配に圧倒され、「はい」と返事を返していた。
そのことをTに伝えると、彼は即答で「了解」した。
4人でダブルデートを3回した。
K子の気持ちはますますTに傾いた。
どうしても正式に付き合ってほしいと言ってきた。
これをTに伝えると、あっさりと断ってきた。好みじゃないらしい。
仕方がない、人にはそれぞれ選択の権利というものがある。
本来ならここでおしまいになるはずだった。
なのに、なのにである!
なぜか俺の思いもよらない気持ちの変化が起きていたのだ。
なんと俺はS子に惚れてしまい、告白してしまったのだ。

そのシーンはこうである。
その日の昼間、俺は目の手術をしていた。正確に言うと、上まぶたの裏側に脂肪の塊ができてしまい、それをメスで削除すると言う簡単な手術だった。
それでも術後は、眼帯をしているから尋常ではない雰囲気ではあった。
その眼帯姿のまま、二人の家の丁度中間ぐらいの場所にある市内の公園で、二人は待ち合わせをした。夕闇迫る静かな公園。二人の他に誰もいない。
夏の終わりのやや涼しくなった園内のベンチで語り合った。
この時に私がとち狂ってしまったのだ。「突然お前が好きだ」と言ってしまったのだ。
ここでS子はうろたえた。
「アンタhだよね? それ、マジで言ってんの?」と鼻の穴を膨らませ,少しヘラヘラしながら言った。(hは俺の下の名前)
俺はやや怯んだ。しかし、キッパリといい返した。
「お前が好きだ!俺と付き合って欲しい」と。
S子の動揺は深まった。
そのまま、あらぬ方向に首を曲げ黙りこんだ。
S子は、即答を避け、困惑した表情のまま結局その日は何の返事もせずに帰ってしまった。
その困惑の意味が数日して分かった。
S子はなんとTが好きになってしまっていたのだ。
自分の親友であるK子がきっかけで、Tと親しくなった。はじめはほんとにK子のためだけ考えて動いていた。しかし、徐々に恋心が湧いてきてしまったらしい。
しかし、K子の気持ちを知っていたから、黙って引き下がるつもりだったらしい。
しかし、おバカな俺の告白によって動揺して、何かのスイッチが入ってしまい、自分の気持ち黙っていられなくなってしまったのだ。悩みに悩んだ末、高校生であるにもかかわらず、酒をベロンベロンになるまで呑んで、
そして、その勢いにまかせてTに告った。
すると、あろうことか、TはS子のことを受け入れたのだ。
そのことを知ったK子はこのグループから消えた。
S子の泣きながらの詫びを、振り切って何も恨言を言わず、憤怒と哀れみを持った顔で去っていった。
ここで、S子が激しく落ち込んだ。罪の意識に苛まれたようだった。電話をしても、なかなか出ない。やっと出たとおもったら、死んだような声だった。
そして、「あたしって最低な女だよなぁ。
すげえいい人のあんたをフって、親友のK子を裏切って、人を傷つけまくって、ほんとどうしようもねぇよなぁ」と自分を蔑んだ言葉を繰り返した。
俺が何を言っても自分を否定する言葉しか発しなかった。
結局2時間グダグダ話してS子のため息とともうめきとも取れる声を最後に電話は切られた。
俺は悩んだ。何とかしてあげたいと思った。
一週間ぐらい時間を空けて、俺はS子を自分の家の近くの公園に呼び出した。
実は、前に会った公園は
K子の家に近かったからだ。
今度は前日、鼻の手術をしていた。
放っておくと蓄膿症になると医者から脅され、嫌々ながら手術を受けた。
今度は眼帯ではなく、鼻の穴に詰め物をしての対面だった。
公園の長いベンチに座り、お互い前を向き、何も喋らない。
この数ヶ月のことをそれぞれが反芻していたのかもしれない。
俺はおもむろに手提げ袋の中から、分厚い封筒に入った手紙を出して、「これ読んで欲しい」とS子に差し出した。
ややびっくりした表情をしながら受け取った。
「そばにいると読み辛いかも知んないから、あっちのベンチにいるからさ」と俺は10メートルほど離れたベンチに向かって歩き出した。
2、3歩あるくうちに、背中でカサコソと紙の擦れる音がした。
S子の緊張を背中で感じながら俺は目的のベンチまでゆっくり歩いた。
実は、その足は少し震えていた。
ベンチで待つこと5分?いや10分ぐらい経ったろうか、手紙を読み終えたS子が顔を上げた。
その両目から涙が溢れていた。
そして、「h、ありがとう」
それだけ言ってまた、手紙に目線をもどした。
涙がポタポタと止まることなく滴り落ちた。
手紙の内容は、S子と初めて会った時の中学時代のこと、今年の春再開してびっくりしたこと、3回のダブルデートの間に徐々に俺のS子に対する気持ちが変化したこと、そしてK子のことは、お前が悪いわけじゃない、仕方がないことだと思っていること、それから、Tと幸せになって欲しいこと、などを、汚なくてデカイ字で、行間も文字間もバラバラな文字で書き殴ったものだった。
30枚にも渡って書いた。
書きはじめは S子の心の傷を少しでも和らげたい、だけだった。
しかし、書きはじめたら、この半年間にあったことが雪崩のように頭に溢れた。
ペンが止まらなくなった。書き終わったら、なんだかスッキリした。正直こんなものをS子に渡す意味があるんだろうかとも思った。でも、渡さずにいられなかった。どこかで何かを期待していたのかもしれない。
そんな俺の気持ちを、S子は素直に受け止めてくれた。
もうそれだけで、俺は何も言うことはなかった。
明日からこれで切り替えて生きていけると思った。
だから言った
「S子、これからもよろしくな」
その言葉に、S子が泣き笑いの顔で、
「っざけんな!ばっかやろう!こんなきったねえ字ぃ読めっかよ!」と笑いながら怒っていた!
まだ涙が乾ききっていない頬が、シワシワとなった。

その半年後、TとS子は別れた。
理由は覚えていない。若い男女のことだ。色々あったのだろう。

さらに、それから一年後。
俺とS子の二人は、市内の喫茶店でお茶を飲み、
何やら面白おかしそうな話で盛り上がっていた。

二人は、男女の間を超えた「親友」と呼び合う仲となっていた。
その後、20代前半までその関係は続いた。彼女の結婚出産まで、それは続いた。

ここで、今回の物語はおしまいです。


ここにも「生きがいのヒント」がたくさんあったんだなぁと、今頃きづいてます。(笑)

そして、この話に続き、関連図書の紹介です。(笑)


夏目漱石【こころ】新潮文庫、岩波文庫、角川文庫、複数社あり。

これは、高2か高3の現代国語の授業で習った人が多いと思う。
私もその頃学んでいます。
そして、これが私の人生の方向を決定付けた本となります。
加藤諦三により、「大好きな仕事を見つけて燃えて生きる」ことを決め、その大好きな仕事を見つけたと思ったのでした。それはこの【こころ】を読み小説と言うものが深くて凄いものだと知った。
人間の奥深くにあるものを文章で描くその力に圧倒され感動したのでした。
こんな物語を俺も将来書いてみたいと高校生の私は思ったのですよ、はい。

物語の内容は主人公というか語り手が「先生」と出会い、その先生の過去の罪のうちあけ話がメイン。その中に出てくるKと言う人物の苦しみと絶望、そして先生自身のおそらく一生悩み続けたであろうその苦悩の話を、物語として、とても面白く読ませるその夏目漱石の文章力に、この上なく感動したのでありました。
小説とはなんと奥深く素晴らしいものであろうか。男子一生の仕事と思い、自分もこうなりたい!と思い始めたきっかけとなった小説でした。
今思えば、恐れ多いかもしれないが、自分も高校生の時に、この夏目漱石の【こころ】に近しい人生体験をしていたんだと気付かされた。
そして、高校生にとってのこの【こころ】の話は、現実には滅多にあるもんじゃないことで、小説の中のお話なんだと思っていた。しかし、長く生きてきて、この中で描かれる三角関係とは、けっこうよくある話だったんだなぁとわかってきた。
でも、そのネタから、エゴイズムという人間の根源的原罪を深く考えさせる漱石の筆力は尋常ではない。
だから、未だにこの本は読まれ続けているのでしょう。


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