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CFA の中山さん、巻組の渡邊さんと「借り物競争」の話をしてみた

こんにちは、ETIC.の川上です。
私はコーディネーターとして、社会起業塾イニシアティブなどの起業支援プログラムの企画運営や起業家の方の伴走を担当しています。先日は今年度の社会起業塾キックオフ合宿を開催しました。新しいメンバーと切磋琢磨する半年間がスタートし、緊張と楽しさの中で目まぐるしい日々を過ごしています。
創業期の起業家さんと話していると、「借り物競走」という言葉をよく耳にします。くじで指定された物を観客から借りてくる、運動会でよく見る競技のことですが、ヒトモノカネ情報といった経営リソースを集めることや、他者を巻き込むことが得意な起業家さんのことを “借り物競争が上手い”と表現したりします。

今回は、お二人の起業家にお時間をいただき、経営視点における「借り物競争」ついてお話をきいてみました。

●お話を聞いた人
株式会社巻組 代表取締役 渡邊 享子さん
NPO法人Chance For All 代表理事 中山 勇魚さん

     左上:中山 勇魚さん、 右上:渡邊 亨子さん       
左下:野田(インタビュアー)、右下:川上(インタビュアー)

――お二人は勝手に「借り物競争」が上手い起業家さんだと思いお声掛けしました。

中山:僕の場合、人に頼ることがむしろ苦手です(笑)
とにかく自分たちの手で良いものを作ろうとしていましたし、誰かと連携することで、活動の質が落ちてしまうことを恐れていたのもあるのかもしれません。過去に、プロボノの方を上手く活かしきれなかった経験もあるので。でも、ボランティアで関わりたいと言ってくれた大学生たちと一緒に、駄菓子屋の事業を始めたことがきっかけで、少しずつ考え方は変わったように思います。

学生たちの行動力や熱量が周りの人たちに伝わって、地域の人と連携する場面も増えて、事業が大きく進んだんですよね。僕が直接動かなくても、学生たちの主体性が人を動かすことを目の当たりにしています。


――学童保育を運営されていると思いますが、保護者をお客様にしないという話も以前伺って印象に残ってます。

中山:僕たちがやっている事業は ”子どもが幸せになるため” にあるもの。それって、保護者の方も願っていることですよね。目的が同じ。だからお客さんではなく、一緒に作っていきたいという話をしたことはあります。

渡邊:お客さんを消費者にせず、事業を一緒に作っていく存在として位置づけてますよね。


――なるほど。コストを抑えるために、あえて保護者を巻き込んでいるのかとおもっていました。ごめんなさい(笑) 
それでいうと、使われなくなった空き家を活用している巻組の事業は、まさに借り物戦略がうまく回っている例かとおもったのですが。

渡邊:私は商売人として、低コストでいいものを届けるための努力として、あるものを使うというのは大事だと考えてます。でも、決して「借りている」という感覚はなくて、譲っていただいたものを、別のなにかでお返ししているという考えでいます。
貸し手と借り手という境目もなく、トレードオフでお互いに生きているという感覚ですね。田舎特有の贈与経済というか、あるものは余すところなく分けようとする価値観が根っこにある。
自分の手に余るものは他の人に渡そうとか、天からの恵みは分け合おうとか、自然に近い環境で生きている人間社会の基本思想みたいなのがあって、震災後はその助け合いでなんとか持ち直そうという考えもあったと思います。そこが私の事業のベースになっているんじゃないかな。

もう一つは、勇魚さんが言っていたような、入居者の皆さんや不動産さんとは、一緒に事業を育てていこうというコンセプトもあります。だからこそ他社にはない特有性、うちらしかできない価値が生まれているんじゃないかと思っています。

中山:そうですね。僕らがやっているのはサービスではないと活動当初はよく言ってたとおもいます。「失礼します」とか「ありがとうございます」って保護者に対して言わないようにと。保護者がお迎えに来たときには「ありがとうございます」ではなく「今日はこうでしたよ」と話すのがあるべき姿であって、お店みたいな挨拶はしないように。

渡邊:私、クレーム受けたとき「ごめんなさい」は絶対言わないことにしていて。「ご意見ありがとうございます」から入って、どうしてそうなっているのかを徹底的に話し合うことを大事にしてます。クレームに対して謝罪して解消するということはせず、まずはお知らせいただいたことへの感謝から入る。
空き家という予測不能な部分が多い商材を扱っているからこそ、そういう感覚は大事なのかなと。

「お客さま」は、共通の目的を達成するための仲間


中山:クレームではないんですが、うちは学童保育に300家庭が毎日通っているので、それぞれの人や家庭で価値観に違いがあります。保護者も真剣に子育てをしているので、こういう風にしたいから、学童ではこう対応してほしいという声をいただくこともあります。
でもこれって、我々が悪いわけではなく、保護者も子どもも悪いわけでもなく、事実として個別のニーズや意見がある。その場合、意味もなく起きているわけではないので、きちんと話し合えばわかりあえると思っています。

最近「全ての人にとっての居場所って存在しないよね」と話をしていて。だからこそ地域の中にいろんな場所が必要で、子ども自身がそれぞれ選択していけることが大事だと考えています。それは保護者に対しても同じで、全員のためにやろうとすると誰のためにもならない。何のためにそうしているかをちゃんと伝えること。
僕は保護者だけでなく、ボランティアの人にも「ありがとう」って言わないんです。言った瞬間に僕達のためにボランティアしていることになっちゃいますよね。ボランティアは、子どもたちのためにいる。子どもたちのために活動したくて参加しているし、一緒にやっている仲間なので。

渡邊:全ての大量生産型というか、今の地球が持続的でないのは、「お客様」というのを作ってしまったせいなのではと、私はなんとなく思っています。
お客さんもお金を払っているのだからサービスを受けるのは当然で、使い古して捨てるのも当然、捨てたものは誰かが処理してくれて当然。「それは私が買ったのだから、私のものだ」という所有意識が、地球をダメにしていると思ってます。

ビジネスとして良いサービスを提供することはすごく大事なことだと思います。多くの人は「良かれ」と思って価値を提供しているし、それを受け取った方も、それを使ってなんらかの価値に変えたいのであって。
でも、そもそも私たちが手にしてるものは、地球の資源を使っていますよね。もとは誰のものでもないのに、お客様というものを生み出し、消費しては捨てていくことを繰り返していることがダメなのではないかなと思いますね。


――借り物競争の話から、思わぬ深い展開に…!続きは飲み会でしたいですね。


【お話を伺ったお二人】
●中山勇魚さん / 特定非営利活動法人Chance For All 代表理事
早稲田大学教育学部卒業。18才の時に家庭の事情で家族が夜逃げ。東京都内のホテルやウィークリーマンションを転々とする。環境によって人生が大きく変わってしまう経験を経て「家庭や環境で人生が左右されないためにはどうしたらよいのか」を考え始める。大学在学中に様々な環境のこどもたちや教育のあり方について学んだり、学童保育の指導員として現場で勤務する中で放課後の可能性に着目。卒業後は保育系企業にて新規園の開発に従事。その後、IT企業でシステムエンジニアとして勤務しながら学童関係者とともに「こどものたちのための放課後」を実現するための準備を開始し、2014年にCFAKidsを開校。


●渡邊享子さん / 株式会社巻組 代表取締役
2011年、大学院在学中に東日本大震災が発生、研究室の仲間とともに石巻へ支援に入る。東日本大震災をきっかけに石巻へ移住。2015年に巻組を設立。資産価値の低い空き家を買い上げ、クリエイターをターゲットとした大家業をスタート。シェアやリユースを切り口に地方の不動産が流動化する仕組みづくりを模索中。
2016年、COMICHI石巻の事業コーディネートを通して、日本都市計画学会計画設計賞受賞。2019年、日本政策投資銀行主催の「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」で「女性起業大賞」、2021年「グッドデザイン賞」など受賞多数。


- INFORMATION -

オンライン連続セミナー(録画配信あり)
「居場所づくりは地域づくり」〜地域と居場所の新しい関係性を目指して〜



公民館での絵画教室を行うのに、「子どもに絵を教えるのが目的」と言えばみんなが納得したが、「子どもの居場所づくりが目的」と言ったら納得されなかった、という事例に出会ったことがあります。
子どもに絵を教えるのは「地域づくり(地域コミュニティ活動)」だが、子どもの居場所づくりは「困っている子のための福祉活動」だと受け取られたからかもしれません。
「居場所づくり」は、しばしばそのように受け止められてきましたし、それはあながち間違いではありませんでした。
同時に、この数年、地域社会での人間関係の希薄化、ソーシャルキャピタル(つながり)の低下などが地域課題として浮上し、「居場所づくり」は地域課題を解決する「地域づくり」でもあるという視点が、人々の間でじわりと共有されてきました。
「困っている子のための福祉活動」としての居場所づくりと、「人間関係の希薄化という地域課題解決の処方箋」としての居場所づくりは、同じなのか違うのか。「居場所づくりは地域づくり」と言えるとして、それはどのような視点、スコープ、そして意味においてなのか。
本セミナーは、居場所づくり・地域づくりの運営者や実践者の方々と目線を合わせつつ、居場所と地域の関係性を考え、気づきや学びを得る機会となることを願って企画しました。みなさまのご参加をお待ちしています。

▶️詳細はこちら


【開催概要】
◎開催日時:
第1回目:11月8日(金)16:00〜18:00@オンライン(ZOOMウェビナー)
 <パネリスト(第1回目)>
 ・放課後NPOアフタースクール 代表理事 平岩 国泰 氏
 ・認定NPO法人CS神戸 事務局長 飛田 敦子 氏
 ・Community Nurse Company 株式会社 取締役 中澤 ちひろ 氏
第2回目:12月中旬(予定)@オンライン(ZOOMウェビナー)
第3回目:1月下旬(予定)@オンライン(ZOOMウェビナー)

◎参加対象
日本全国の地域で、子どもや高齢者などを対象に、「居場所づくり」に関する活動を展開されている方々
日本全国の地域で、子育てカフェや空き家活用など、「地域づくり」に関する活動を展開されている方々
上記以外に、本イベント趣旨にご関心のある方々

◎参加費:1,000円(税込)

◎申込方法
こちらのページよりお申し込みください【締切:11/6(水)】

◎主催者
「居場所づくりは地域づくり」実行委員会(NPO法人エティック、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ)


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『Beyondワークβ』第2期プロジェクト募集のお知らせ

今回は、ETIC.が、ロート製薬株式会社、アビームコンサルティング株式会社と共にはじめた『Beyondワークβ』という3か月間のプロジェクトマッチング機会についてのご案内です。

『Beyondワークβ』は、まだ構想・実験段階で、なかなか人のアサインが難しい「生煮え」のプロジェクトに対して、共感してくれる社会人のみなさんを繋ぎ、3か月間、集中してプロジェクトを進める!という機会です。
ここで出会った社会人のみなさんとは、その後、相互の希望があれば、
自由契約で関わり続けてもらうことも可能です。

【開催概要】
◎プログラム期間:2022年12月~2023年2月(3か月間)
◎プロジェクト件数:15件(予定)
◎応募資格:
①プロジェクトオーナーが以下のいずれかであること。
a)NPO法人ETIC.のプログラムやサービスに参加したことがある方。
 ETIC.のパートナーや、形成するコミュニティのメンバーである方。
b)NPO法人ETIC.のコーディネーターからの推薦がある方。

②「応募プロジェクトの要件」を満たしていること。
『Beyondワークβ』第2期プロジェクト募集要項
※応募プロジェクトの要件は22ページをご参照ください。

◎プロジェクト募集方法:公募/先着順

こちらのエントリーフォームにてご応募ください。
※また、プロジェクト設計シート(ppt)を別途メールでご送付ください。
プロジェクト設計シート

◎送付先:
beyondwork@etic.or.jp(Beyondワークβ事務局宛)

◎プロジェクト受付開始:
10/13(木)10:00 ※募集件数に達し次第、受付終了

◎第1期参加者の顔ぶれ:
・ロート製薬社員:マーケティング、経営企画など
・アビームコンサルティング社員:IT・経営分野のコンサルタントなど
・保険会社ESG推進担当
・広告代理店プロデューサー
・ソーシャルベンチャー社員(地域ブランディング)
・NPOなど非営利セクター職員

※自由エントリーなのでマッチングしない可能性もあります。
※年齢層は20代~50代まで幅広い参加者です。
 スキルや専門性は個人によります。
※参加者は、主催企業の社員と、
 個人参加(ETIC.が公募)の2つのルートがあります。
 詳細は募集要項をご確認ください。
 『Beyondワークβ』第2期プロジェクト募集要項


なにかご不明点や気になる点があれば、事務局までお気軽にお問い合わせください!エントリーお待ちしています。
【お問い合わせ】
  NPO法人ETIC.『Beyondワークβ』事務局
  担当:腰塚、鈴木 beyondwork@etic.or.jp


Editor's Note - 編集後記 -


 (川上果穂)「借り物競争」は、私が思っていたよりもずっと事業を進化させるために根底となる考え方であることをお二人それぞれのエピソードを聞く中で、気付かされました。

創業期は特に、どう仲間集めをしていくのか、という質問を受けることがよくあります。今ないものや人をどう見つけて、仲間になっていくのか。そのためにヒントとなる考え方がお二人のお話はとても参考になるのではないでしょうか。

中山さん、渡邊さん、お話を聞かせてくださり、ありがとうございました!

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