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失敗しにくい職場のなかで

この記事は2023/05/12に配信を行なったメルマガの転載です。 


みなさん、こんにちは。
エスノグラファーの神谷俊です。

5月も半ばに差し掛かろうとしています。あれほど待ち遠しかったゴールデンウィークも過ぎてしまえば、あっという間だったなと。

皆さんは満喫できましたか。神谷家は、高原のバンガローに5日間ほど滞在してきました。馬やウサギ、ワシやフクロウと戯れてきました。広大なフィールドに解き放たれた動物たち。その逞しさや雄々しさに触れると、彼らは一匹の動物として与えられた“生”を全うしているのがよく分かります。

君はどうですか?そのようなことを彼らに問われているようで、少し恥ずかしくなってしまった私がいました。自然のなかで人は様々な意味で小さいなと。


失敗させるためにはどうすればよいか?という相談

さて今回のメルマガのテーマは、失敗です。
ここでいう失敗とは「うまくいかなかった」という感覚をもたらす状況を意味します。

このテーマについて考えたきっかけは、先日の企業講演でした。
聴講者の方から次のようなご相談を頂きました。

“最近は失敗できる機会が少ない。もっと失敗をさせるためにどうしたらいいでしょうか?”

確かに、と思いました。失敗は学習の種であるとされています。人は失敗するからこそ、成長する。「うまくいかない」というある種の“痛み“を知覚してこそ、そこに不足していた要素を注意深く吟味し、自らを整えることに意識が向いていきます。

だからこそ、育成を担う人は部下や後輩に失敗をさせようと「とにかくやってみろ」「挑戦しろ」と促すわけですが、近年は良質な失敗を積める人は限られるのではないでしょうか。


失敗しにくい職場

前提として、ビジネスに限らず私たちの生活において、失敗をする機会はそれほど多くないと言われています。まったく経験のないことを始めるとき、私たちは巧くいくのかとハラハラしながら、そこにある成功や失敗の可能性を予期します。しかし、「やはり失敗してしまった」と人が感じる確率は、10回挑戦したうちの3回程度だそうです。そもそもとして、私たちは失敗しにくいようにできている。

これがビジネスになるとさらに失敗率は下がるのではないでしょうか。自分の能力や役割を適切に認識し、妥当な目標を設定し、実現可能性を測り、しかるべき準備を整え、「保険」をかけたうえで仕事に臨むでしょう。社会人経験を積み、コミュニケーション能力と論理的思考力を備えていくほどに、人はさらに失敗を回避できるようになっていきます。成功をつくることが上手になっていく、と言い換えても良いかもしれません。

では、経験が少ない人は「失敗した」と知覚する機会が多くなるのか?というと、そうとも言い切れない。経験が少ない人ほど挑戦を「脅威である」と見なすことが多いことが分かっています。脅威を感じれば、脅威によってもたらされるダメージを軽減する術を講じるでしょう。

例えばうまくいかなかったときの言い訳を事前に準備するなど、リカバリー策を検討したり、成功率を高めるように他者に助けを求めたり、といった具合です。防衛や回避など、それなりの対策を周到に組み上げるのが彼らの処世術です。

その帰結として、たとえミスをしても「ダメージがない」「まぁまぁそれなり」な結果に持ち込むことができる。もしそうであれば、挑戦者本人の内に「うまくいかなかった」という感覚は生まれにくくなります。挑戦機会の多さと、「うまくいかなかった」という感覚は必ずしも連動するものではないと言えるかもしれません。

さらには、近年はテクノロジーも発達しています。ChatGPTなど人工知能による有能な情報検索ツールや、精緻な検証をしてくれる分析ソフトがあります。ビジネスチャットなどのコミュニケーションツールを活用し、気軽にアドバイスを乞うことができます。

このような環境の中では、「うまくいかない」経験をさせることはかなり難しくなっています。


失敗は、手段の1つに過ぎない

では、どうすべきか?

「部下や若手社員の準備を制限して、半強制的に失敗させる」という“荒療治“も考えられますが、それでは実際的に業務遂行を失敗させたとしても、心理的に「自分は失敗した」という感覚を醸成することが難しくなってしまう。

「なんて理不尽なマネジメントだ」と失敗の原因を上司や会社に帰属させて、やはりそこから学びを得る姿勢はなくなってしまうはずです。

ポイントは「なぜ、失敗をさせたいのか?」について改めて考えることであると私は思います。

どうして失敗を経験させる必要があるのか?それは冒頭にも述べた通り、自らを振り返らせる契機とするためです。さらには、そこから自分と状況をより良くするための学びを紡ぎだすことが本来の目的です。
そうであるならば、失敗をさせることそのものは重要ではないのかもしれません。

失敗をせずとも自らの経験を精緻に振り返り、学ぶ姿勢をつくることができるならば、失敗経験を敢えて演出することはないのでしょう。仕事にミスや失敗がなくとも、学習を生成する手段は無数にあるはずです。

ここで1つ紹介するならば、目標を戦略的に設計することです。具体的なアプローチとしては、目標を2つ以上つくること。パフォーマンス目標のほかに、ラーニング目標やキャリア目標といった名称で、プロセスや能力レベル、知識レベルなどの向上を促す目標設定をしておくことです。

例えば、営業職であれば売上〇〇万円の達成がパフォーマンス目標となります。その目標のほかに、ラーニング目標として

  1. 主要クライアント大手X社の事業ポートフォリオを充分に理解し、今後の事業展開や発生するニーズについて自分なりに分析をする。

  2. プレゼンテーションを効果的に進めるためのノウハウを5つ以上見つけ、部内で勉強会を実施する。

  3. 自らの営業プロセスを振り返り、課題を見つけて改良を加える……


といったような複数のアクションを業務上の「目標」として設定します。これらのアクションについて、定期的に進捗を確認し、フィードバックを提示することで学習を促すことができるようになります。

きちんと学習にリソースを割く仕組みを設計することが大切であると考えます。失敗しにくい環境であるからこそ、学んでもらう機会を戦略的にデザインしていきたいですね。

今回は、以上です。

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