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カタログモデルをコラージュせよ

デスクで仕事中、カタログ制作の担当者が「すぐにスタジオに来てくれ」と言う。とても慌てていて、有無を言わせない勢いだった。

入室すると、「この服を着てくれ」と半袖のシャツを渡された。襟付き、綿100%、ざっくりとした風合い、白地に青い横縞。担当者は校了前のカタログのゲラを私に見せた。イタリア人を思わせる髭を生やした外国人モデルが、半袖シャツを着ている。しかし、そのシャツは横縞ではなく、縦縞だった。

経緯はこうである。オーダーした縦縞シャツのサンプルが海外の発注先から届いた。モデルに着せてカタログ用の写真を撮影した。製品が日本に着き、開梱するとすべて横縞だった。

社内は騒然とした。今から縦縞で急ぎ生産しても間に合わない。なんと、会社は横縞で販売することに決めた。しかし、カタログ写真は縦縞で、モデルを手配して再撮影するとカタログの印刷と発行に間に合わない。

窮余の策として、何も知らない私にシャツを着せて撮影し、外国人モデルの写真にシャツだけを嵌め込む、コラージュする賭けに出たのだった。

担当者は、モデルと同じポーズを取れと言う。しかし、どうも動きの中で連写した一枚のようで、少し前かがみになって片腕を下げるポーズのまま静止するのは難しい。カタログを見ながら、担当者はミリ単位でポーズの修正を私に求め、疲労が蓄積する。時間はない。

白い壁の前に立って、私は何枚も写真を撮られた。モデルとは骨格も体形も異なるのに、大丈夫だろうか。そもそも、どうすればこんなありえないミスが起こるのだろうか。

写真はすぐさま印刷会社に送られ、加工された。戻ってきた写真は完璧だった。モデルの縦縞が横縞になっている。体形に違和感もない。皺や陰影が施され、開いた襟元も違和感はない。私ではない毛むくじゃらの腕がにょきっと出ている。イケてる外国人モデルが着ているシャツの内側は、私の上半身なのだ。

カタログはぎりぎりで印刷に回され、期日通りに発行された。非常事態を乗り切り、最悪の事態を回避し、縦縞で商品開発されたシャツは横縞になって発売された。


今朝、FAになっていた大谷翔平がドジャースに入団すると発表された。エンゼルスの赤いユニフォームではなく、ドジャースの青いユニフォームを着た大谷翔平のコラージュ画像が拡散された。

あの混乱が鮮やかによみがえる。
世界は驚きに満ちている。

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