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生産性と言わないで

生産性ってなんだろう

このタイトルで記事を書こうと思ったのは1週間前なのですが、奇しくも、この数日、某メンタリストの炎上により話題のキーワードとなっています。

「生産」って改めて見るとすごい字面ですよね。生む+産むって。頭痛が痛い、みたいな。どんだけ生み出したいの。

生産性(せいさんせい、Productivity)とは、経済学で生産活動に対する生産要素(労働・資本など)の寄与度、あるいは、資源から付加価値を産み出す際の効率の程度のことを指す。
生産性-Wikipedia

経済学の文脈で生産性という語を用いることは妥当であるとして、問題なのは、この「資源」に「人間(生命)」を当てはめてしまうこと。
女は産む機械だの、LGBTカップルは生産性がないだの、人間の価値に「生産性」の尺度を用いる過ちは繰り返されており、現実に、相模原市障害者施設殺傷事件のような凄惨な事態を引き起こしている。

人間は資源じゃない

なぜこんな当たり前のことをあえて活字にして表明しなければいけないのか全く、全くもって理解不能なのですが、断言すると、人間の生命は資源ではなく、価値そのものです。
何か、あるいは誰かのために用いるものではなく、その存在そのものが唯一無二、至高の価値です。

資源(しげん)は、人間の生活や産業等の諸活動の為に利用可能なものをいう。広義には人間が利用可能な領域全てであり、狭義には諸活動に利用される原材料である。
資源-Wikipedia

この世に生まれ落ちて、仮にその生命活動において何一つ付加価値を生み出すことがなかったとしても、その人の、その生命の価値は不変です。逆も然りで、一生のうちにどれだけの付加価値を生み出しても、人間の、生命の価値は不変です。
その人が生み出した付加価値と、その人自身の価値は、全く関係がないことです。付加価値に相応しい対価を取り引きし、完結することです。

なぜ生産性と人間の価値を結び付けてしまうのか

理解できないなりに、人間の価値を生産性で定義しようとする発想について思いを馳せてみる。然るべき有識者がきちんと語っていると思うのですが、自分なりに想像してみる。

(1)分け前が少なくなることへの不安
自分を含む人類が分かち合うことができる価値は有限だから、その価値の増大に資することがない人はコストである、という発想があるかもしれない。

ひもじいし、あなた自身も苦しむ発想ですね。

どれだけの価値を生み出せば、その人が消費する価値に見合うのでしょう。計算できそう?
仮にあなたが今相応の価値を生み出しているとして、生涯変わらず、生み出し続けられるという保障はあるのでしょうか。ギブアンドテイク、均衡は取れそう?大丈夫そ?

そんなに不安なら、人類が分かち合える価値の総量を増やす手立てを、そのために自分ができることを一つでも多く考え、手を動かした方が建設的ではないでしょうか。

(2)自分よりも下位の存在を定義し、自分の価値を相対的に高めたい
そんなことをしなくても、あなたも、あなたが不要と断じたその生命も、あるいは、あなたが自分よりも上位で優れていると考えるその人も、全員フラットに至高の価値なので、安心してください。大丈夫です。

(3)人間を人間として認識していない
先に触れた差別的言動はいずれも、人間を「ホームレス」「女」「LGBT」「障害者」は、と目的語となる人間を抽象的にカテゴライズしています。

物事を抽象化し、カテゴライズすることは、人間の叡智の一つであり、便利ゆえにともすると濫用してしまうのですが、事実って大抵本当は複雑で、特に人間は、その人の生命に紐づく歴史やバックグラウンドを含め、もう一人一人が複雑性の集合体なので、抽象化した途端「偽」になることに気をつけたい。

目的語を、その属性に該当する特定の身近な人の氏名に置き換えると、口から発することが格段に難しくなるのではないか。例えその人を目の前にしていなくても。(政治家や芸能人など自身と縁遠い人は、固有名詞でもしばしば容赦なく罵られているけれど、これも一種の抽象化、概念化ですよね。)

とりあえず、人間の抽象的な属性を目的語にして何かを語ろうとするときは注意した方が良い。

自分の中の優生思想と見つめ合う

自分が正しいとは思わない。わたしだって、某コンサルティング会社の挨拶である「バリュー出してる?」を面白おかしく真似していたことがある。(やば〜
バリューを出していると偉いという考えは、一見合理的で、頷きかけてしまうところが危うい。実際には、バリューに見合う対価(金銭や評価)を受け取った瞬間に精算されているのに、あるいは、その価値とは生み出したものに伴うのに、うっかり、その人の存在価値と誤認してしまう。

他者批判の前に、自分の中の優生思想と向き合いたいと思います。そこから社会は変わっていくと思うから。

(参考)