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『劇場短編仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』・『劇場版仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』感想二冊斬り

 2020年12月18日公開『劇場短編仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』・『劇場版仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』、どちらも予想以上の衝撃を与えてくれた作品だった。以下ネタバレ全開で感想を書き連ねていく。


振り切ったアクション偏重劇場 『劇場短編仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』


 今回の敵は破滅の本を携えた剣士バハト(仮面ライダーファルシオン)。封印から目覚めた彼はワンダーワールドを虚無に導くことで現実世界をも破滅させようとする。そんな彼を斗羽真(仮面ライダーセイバー)達ソードオブロゴス6人の剣士が食い止めようと奮戦するというのがあらすじ。というかもうこれで話が全部説明できてしまう。


 バハトがいかなる人物なのかは、タッセルが足早に視聴者に向けて解説するのみ。封印が解かれた理由も明かされることなく世界滅亡が進む。剣士達も不死鳥の剣士と破滅の本についてどこまで知っているのかわからないまま、各々口上を述べて戦いに向かう。アクションシーンは劇場版らしく派手だがバハトと戦うのは斗羽真のみ。他5人は終始ザコキャラの殲滅だけである。セイバーが手にした新たなライドブックの説明もされず、新フォームお披露目戦闘でファルシオンを再び封印する。アクションシーンとそれに伴う戦闘台詞の応酬で成り立っている作品なのだ。まるで仮面ライダーのゲーム化作品であるバトライドウォーシリーズのごとく怒涛の勢いで駆け抜ける20分、潔いにもほどがある。
 とは言え、直後に上映されるゼロワンにつながる部分もある。唐突に始まる戦い・ファルシオンの不死設定だ。これが抗体のように効いてくる。ゼロワンありきで作られた原材料丸ごと使用アクション映画、それがこの作品の本質なのだろう。



人類対ヒューマギアから抜け出したゼロワンの戦い『劇場版仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』


 謎の男・エス(仮面ライダーエデン)が60分で世界を滅ぼすと宣言し、彼の信者達が一斉蜂起を開始。挑戦状を受けた或人(仮面ライダーゼロワン)が初っ端からエスと戦うところから話が始まる。始まり方としては唐突だが、直前のセイバーのおかげで話に入り込める。
 TV本編では人類のサポートを行うAI搭載ロボット・ヒューマギアがどのように仕事を行い、どのように心(シンギュラリティ)に目覚めるか。そして人類は人間に近づく彼らとどう相対するかが中心だった。劇場版では逆に人類がアバター化することでAIになろうとしている。本来医療用として開発されたナノマシンが人々の意識を奪うばかりか、新しい姿(アバター)を形成する。このアバター達は専用機器さえあれば操れるし、倒されてもノーリスクで復活できる。直前で猛威を振るった不死設定が敵全員に付与されるという絶望感。破滅願望というどす黒さも加わった新しい悪意が誕生した。


 ゼロワンで見たかったものの一つとして、全仮面ライダーの一斉変身があった。本編OP最後の絵のようなシーンは見れないと思っていたが、今回はそれぞれの諍いも収まったことが前提であり、しかも敵は生身の人間でもヒューマギアでもない存在。きっちりお膳立てが済んだ状態で一斉変身が見れた。また共闘シーンでの不破と迅の凸凹ながらお互いを助けあう姿勢がこの2人らしい歩み寄り方だと思えた。
 一番意外だったのはやはりイズのゼロツーへの変身。イズは戦闘能力がないことを明示されていたヒューマギアであった(だからこそ戦場に同行することを或人に拒否されている)。なので自分も無意識にイズが戦う姿を思い描いていなかった。しかし、或人に言われた指令を忠実にこなすだけであった彼女が滅の言葉とゼロツードライバーを通した意志で心が目覚め、ゼロツーとして戦場にはせ参じる。戦いつつお互いを気遣う姿はとても微笑ましいものだった。


 60分という時間を作品内のリアルタイムに落とし込み、新たな悪意から世界を救う戦いを描いた本作。見たかった後日談と共に、直前の劇場版セイバーが整えた土台をきっちり生かし切った。世界観は独立し、交わることはなくとも共に戦えるという仮面ライダー作品の新たな面を見せてくれた。

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