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傾聴するときにもっとも大切なこと

本日は、「LISTEN」-知性豊かで創造力がある人になれる- (Kate Murphy著)を拝読したのと、「聴く喜び」というテーマでトークをする機会をいただいたため、「傾聴力」について記事にしたいと思います。

SNSの発達で、「積極的に自己アピールしないと存在価値がないのではという不安に駆り立てられる今の風潮」の中では、上手に話すことが重要視され、聴くことの必要性が忘れられる傾向にあります。しかし、人生においては、自分の狭い視野を広げ、人生を豊かにするのは、聴くことです。

自分に関心を持ってもらおうと過ごす2年間よりも、他の人に関心を持って過ごす2か月間の方が、多くの友人を作ることができる

『人を動かす』デール・カーネギー

傾聴スキルの中でもっとも大切なこと

「聞く」は受動的であり、「聴く」は能動的に、耳と心と目で聞いて理解することです。

もっとも優れた聞き手は、聴くことに意識を集中させ、聴くための他の感覚も動員します。(中略)ここでつかんだ「意味」が、創造性、共感、洞察、知識へとつながる扉を開きます。

『LSITEN』

一般的には、傾聴力で大事なことは、

  • 適切なタイミングであいづちをうつ

  • 相手の言った内容を否定しない

  • 話し終えるまで聞く

  • OpenクエスチョンとClosedクエスチョンを適宜使い質問する

  • 受け止めた内容を要約して返すか、同じ言葉を使ってオウム返しする

といったテクニックが語られることはありますが、もっとも大切なスキルと資質は、相手に対する真摯な「好奇心」です。自分のことは無にして、相手の関心に関心を持ち、相手の見ている景色を理解したいという純粋な好奇心から質問することです。

優れた聴き手とは

CIA(中央情報局※主に人的情報を利用して世界中から国家安全保障に関する情報を収集・処理・分析するアメリカの対外情報機関)は、局員の聞く能力を伸ばす訓練をするよりも、もともと聞き手として優れている人を採用するそうです。それは、「傾聴は、再現可能な科学というよりアート」であるからです。

聴くことの出発点は、「他の人の話に耳を傾けること」ですが、話し手と聞き手の脳波の波動が合い、より深いところでつながり合うことができたときに、互いの人生を意義深いものにすることができる、と書かれています。

聴いている最中に考える、判断するのをやめて、相手の状況や感情を「感じとる」ことが大切です。逆に、アドバイス、助言してあげようと思うと、良い聴き手にはなれません

優れた聞き手の例として記載されていたのが、「自分の赤ちゃんの泣き声に耐えられない」と言っている母親との対話です。

「わかります、私も赤ちゃんの泣き声は私も気に障ります」と共感したり、「人間は赤ちゃんの世話をせざるを得ないように、赤ちゃんの泣き声を不快に感じるようにできているのです」と他の知識や情報で肯定したりすることは、自分もふだんやっている反応です。しかし、共感するということは、自分の判断が入ります。また、共感や肯定は相手に安心感を与えますが、相手の感情と自分が経験した感情は同一のものではありません。

最も良い聞き手は、「赤ちゃんの泣き声の何が気に障るのですか?」と質問した、ということです。

そして、それに対して、母親は一瞬考えて、「自分が小さかったころに、誰も何もしてくれなかったことを思い出す」と言いました。

つまり、子供の泣き声が、母親に心的外傷後ストレスを引き起こしていたため、泣き声を聞くたびに、落ち込み、恐れ、怒りを感じていたことを対話から引き出したのです。

聴き合う社会

前回、自分の胸の内や価値観を集中して聴いてもらったのは、いつでしょうか?

対面での仕事が多かったコロナ以前は、仕事のあとや休憩時間などに、仕事以外の会話をする時間も比較的多く、その中で本心や胸の内を吐露したり、顔と顔を突き合わせてじっくり話を聴いてもらう/聴くことも自然にあったかもしれませんが、コロナ以降のリモートワークの常態化で、そういう機会はほとんどなくなっています。

デジタルネイティブな若手やZ世代であっても、心の通った会話を誰ともできずに孤独を感じる人は増加し、カウンセリングやコーチングなど、目的をもったある種のサービスとして、家族でも職場の上司・同僚でも友人でもない第三者に有償で「聴いてもらう」ケースは増えていると思います。

人間の「自分を理解してほしい」「自分の思いを言語化してクリアにしたい」という本能的な欲求を満たして幸せな人を増やすために、そういった職業の存在価値はありますし、家族や仕事など何らかのつながりがある他者よりも、自分の生活や職場とは無関係の第三者だからこそ本音を言える、という面もあると思います。一方、聴く側はプロフェッショナルサービスとして対価をいただいて行う、つまりクライアントとサービス提供者という利害関係がある前提で行うものなので、誰もが利用できるものではありません。

理想的には、職場の同僚や上司、友人、家族など、自分にとって大切な人と、できれば顔を顔を突き合わせて、難しければ電話やリモートでも「聴き合う」ことで互いを理解することができれば、さらに幸せな人が増える社会になるのではないかなと考えています。

じっくり対話をすることで、相手が思ってもみなかったような本心が出てくる瞬間に立ち会い、感動するほどの聴く喜びを感じる経験はそう何回もできるものではないですが、私自身、自分の身の回りから、1対1や少人数での対話を重ねながら、そんな機会を作っていきたいです。


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