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1967年にアメリカのデトロイトで起こった人種差別を発端にした暴動、その際にあった警察官による黒人青年たちの監禁、拷問、殺害を当事者の白人女性の証言を元に詳細にドラマ化したのが今回の「デトロイト」なんですが。んー、デトロイト暴動の事自体は、(学校で習ったんでしたっけね?)事件として知ってはいたんです。(差別に対して怒った黒人達が起こしたという事も。)ただ、破壊された店舗から商品を盗み出す住人達の姿ばかりが印象的で。その暴動に至るまでの歴史や、そこで一体何が行われていたのかっていうのは全く分かってなかったんですね。で、今回この映画を観て、これ全く何も解決してない話だし、この時の遺恨が今も面々と続いていて、現在のアメリカ(というか日本を含む世界)を確実に形勢している一部になっているんだなというのが、まあ、ひとまずの感想だし、とにかく事実として強烈な体験だという事です。

えーと、だから、まぁ、観終わってもモヤモヤすること然りなんですよ。とにかく、そのデトロイト暴動っていうのを恐らく起こったまんま、流れのまんまに描いていて。(あの、監督はキャスリン・ビグローさんという人で「ハート・ロッカー」とか「ゼロ・ダーク・サーティー」の人なので、こういう実際にある事象をドキュメント・タッチでドラマ化するのには定評のある人なんですね。)だから、"映画を観た"という前に、その暴動自体をワケも分からずそれーっと見せられるわけなんで、観終わってから、今観た事を自分の中で咀嚼するのにかなり時間が掛かるんです。誰が善人で誰が悪人で、何が良くて何が悪かったのかなんて事の前に、とにかく、まずは"暴動"っていうカオスを自分なりに解釈して整理しないと、一体これが何だったのかさえよく分からないって感じなんですね。ただ、というか、だからこそですかね、暴動が始まる瞬間というのがもの凄くダイレクトに描かれていて、それが自分の中に入って来るのがとても怖いんです。(その怖さを描けているだけで凄い映画ですし、観るべき価値があると思いますが。)いつもの日常からある事件が起こって、それに対してじつはみんなが秘めていた思いみたいな物が共有されていたんだって事が分かって、ひとりが口火を切ったら、それがまるで火が油を伝う様に拡がって行き、あっという間に手をつけられなくなるっていう。その場面が日常の延長線上で描かれるんです。

で、映画は、その時の、各々の立場の人達の心理状態みたいなのを詳細に捕らえていくんですけど、映画としての見所は正にそこだと思うんですね。(あと、単純にこの監督の映画、いつもそうですけど、脚本がうまいですよね。)現実というのは、何か事件が起こった時に順序立てて事態が起こるわけではなくて、いろんなことが波の様に一気に押し寄せてカオスになるものだと思うんですが、この映画も正に、そのいくつものエピソードが同時に起こっている様を、混乱させずにきちんと見せてくれるんですね。だから、映画として、この衝撃の事実をどうやってドラマとして見せているかってところがこの映画の肝でもあると思うんです。物語の中心になるアルジェ・モーテルでの監禁拷問事件の登場人物に、ドラマティックスっていう当時売り出し中のコーラスグループのメンバーがいたんですが、こういう事実の中にあるドラマチックな部分(「ドラマティックスだけに!」とか冗談にもならない事件ですが。)を見つけ出して、それを映画の感情的な軸として使っていて。こういうとこがホントにうまいと思うんですよ。なので、テレビでニュース映像を見ている様な客観的視点でもあるのに、そこに自分もいるかの様なリアルな空気感というか実感があって。監禁拷問のパートだけ観たら、もう完全にホラー映画なんですけど、(去年公開された「ドント・ブリーズ」とか「悪魔のいけにえ」とか思い出すくらいホラーです。)その「ホラーかよ。」って思ってしまったこと自体が事実なんだっていう事実に驚くというか。

例えば、ドラマティックスのメンバー達は暴動があった日の夜に初めて大きなステージに立とうとしてるんです。で、いよいよ自分達の出番だっていう時に暴動が起こってイベント自体が中止になるんですが、ドラマティックスのメンバーにとっては正に世間に自分達の存在を知らしめる大きなチャンスの舞台だったワケで。つまり、この未来ある若者たちにとっては、例え黒人の解放としての暴動だったとしても「知るかよ。」って事なんですよね。そんな事よりも今夜この舞台で歌う事の方が大事なんですよ。そういう集団の心理とはまた違った個として巻き込まれていく感覚をちゃんと描いているので、当事者ではない僕らにとっても感情移入出来るドラマとして受け入れられる様になっているんです。で、それを同時に事実としても突きつけられるという事になるんです。

この、強烈過ぎてちょっとにわかには信じ難いけど事実として受け入れざるを得ないっていう感覚、以前にも映画でした事あったなと思ってたんですけどあれでした。インドネシアのクーデター後の「共産党員大量虐殺」を国がヤクザやチンピラを雇ってやらせていたという事実。それを虐殺した本人達に演じさせるというアクロバティックな方法でドキュメント映画化した「アクト・オブ・キリング」。あれを観た時の絶望感に近いです。ただ、「アクト・オブ・キリング」にしても今回の「デトロイト」にしても、自分達が住むこの世界の一端を形作っている物として間違いなく存在する物だし、(じゃあ、一体どうしたら良いのか。事の発端は一体何なんだっていうところまで思いが至るという事を含めて。)それを知っておくに越した事はないですし、その演出の上手さ、脚本の確かさ、青春ドラマとしての面白さ、音楽の良さ(デトロイトはモータウン発症の土地でもあるんです。)などエンターテイメント映画としてもそうとう面白かったので、なんだか重そうだし説教臭そうだなと躊躇してる人にも是非観てもらいたいですね。いや、語弊あるかもしれないですけど、ほんとに面白いですよ。

あと、特筆すべきは、(「スター・ウォーズ」とは真逆の役を演じたジョン・ボイエガもとても良かったですが、)ほんとにクソ忌々しい警察官クラウスを演じたウィル・ポールターさん、この人ほんと凄いです。だって、マジで最低だなと思いましたもん。そして、それでも、ある意味、こちら側も巻き込まれた人達なんだなというのをこの人の存在によって感じましたから。(「じゃあ、一体何が悪いのか」っていう思考ループ、それがこの映画のメッセージとしての凄さじゃないかなと思いました。もの凄くドラマチックなんだけど事実としての怖さをちゃんと伝えられているということで。)

http://www.longride.jp/detroit/
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