「デフレ」は良いものか?それとも悪いものか?

 ここでは、インフレーション(インフレ)とは「一般的な財・サービスの価格水準が継続的に上昇する状態」と定義します。対して、「一般的な財・サービスの価格し順が継続的に下落する状態」をデフレーション(デフレ)と定義します。

 例えば、近所のスーパーに買い物行き、昨日は1gあたり100円だった鶏胸肉が1gあたり80円だったとします。これは「限られた期間」における「個別の」財・サービスの値下げであり、デフレとは言えません。

 しばしばインフレやデフレの良し悪しが議論になります。経済学の分析方針には規範分析と実証分析の二つがあります。

1. ある価値判断基準に基づき、制度のあるべき姿を示す規範分析

2. ある制度の元で起きる結果の背景を説明しようとする実証分析

特に良し悪しの議論は規範分析が得意とするテーマです。さて、デフレの場合に注目し、金融取引という制度の例を挙げてみます。

金融取引(お金の貸し借り)の例

 Aさんが金融機関Bと返済額固定のローンを契約して1000万円の住宅を購入したとします。ローンの契約内容は「1年あたり100万円の支払いを10年続ける」としましょう。ここでデフレが起き、同じ住宅価格が500万円となりました。すると、Aさんの毎年の支払額は50万円で済むことになります。ただし、返済額固定のローンですから、Aさんの支払額は100万円のままです。一方、金融機関Bの受け取る返済額は相対的に大きくなります。

 上記の例では、デフレによって借り手であるAさんから、貸し手である金融機関Bへの所得移転が発生したと言えます。ここまでは実証分析の結果です。

 この例を引用して、規範分析の結果としてデフレの良し悪しを結論づけるためには、何らかの価値判断基準を持ち出す必要があります。例えば「借り手の負担を最小化すべき」という価値判断を採用すれば、金融取引におけるデフレは望ましくないという結論になります。ただし、分析者は自身が選択した価値判断基準がいかに望ましいかを説得的に説明する責任を負います。えてしてこれは分析結果を導くよりも困難です。


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