雪に包まれた街で
雪の季節になるとわたしは、北を目指す習性がある。これは、2年前の冬のこと。
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雪が見たい。
そう唐突に思ったのは、水曜日のことだった。その日ふとカレンダーに目をやったわたしは、週末が3連休であることに気づき、加えて、土曜日に入っていた予定が急遽なくなって、これはもう、旅に出なければと思った。
何か嫌なことがあったとか、そういうんじゃないけれど、なんとなくちょっと、息が詰まっていたところだった。そういう時わたしは発作的に、小さな旅に出たくなる。
思い返すと去年も一昨年も2月にわたしは出かけていた。
去年は、日帰りで秩父へ。
一昨年は、1泊2日で白馬へ。
そして今年、わたしが選んだ旅先は、青森県弘前市。夫が東北好きなので、今までも夏や冬に何度か東北に行ったことがあるけれど、弘前は電車で通り過ぎたことがあるだけだったし、なにより、ここに行けば確実に雪があるだろうと思ったのだ。
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水曜日に行先を決めて、3日後の土曜日。雪の舞う東京をあとにして、8時前の新幹線で新青森へ。お昼ご飯を食べ、特急に乗り換えて、弘前駅のホームに降り立ったのはお昼過ぎだった。
そこは、文字通り、雪国。
弘前駅のコンビニで買ったことりっぷを頼りに、カメラ片手に街を散策する。雪をかぶった洋館。弘前で一番古いビルにある喫茶店。カラフルな建物たち。お洒落なショップ。弘前は、レトロと新しさが絶妙に入り混じった居心地の良い街だ。
最高気温がマイナスの、雪に包まれた町。100円で市内をぐるっとまわるバスもあるけれど、結局ほとんどを歩いてまわった。寒かったし3回派手に転んだけれど、歩きたい気分だった。雪を、冬を、全身で感じていたかった。きんと冷えた澄んだ空気を吸うたびに、体内が浄化されていくような。そうやってわたしは、都会の生活できゅーーーっとかたく締まりすぎてしまったネジをゆるゆるとほどいていった。そう、わたしは、ネジを緩めて締めなおすために、こうして小さな旅に出る。
積もったばかりの雪を踏みしめる。ぎゅっ、と足元から音が鳴る。舞ったりやんだりを繰り返す雪はとても静かで、本当に静かで、「しんしんとふり積もる雪」という表現を思いついた人は天才だな、なんてことを思う。ゆるゆると、ネジを緩める。
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余談だけれど、この3連休はちょうど弘前城のある弘前公園で灯篭祭をやっていた。東北の5大雪まつりの1つなんだそう。弘前城は桜で有名なのだけれど、雪の弘前城も美しい。桜色のライトでライトアップされたお濠は、そこだけ春だった。しかも、冬の花火というおまけつき。今度は春にも来てみたい。
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1泊2日の予定だったのだけれど、東京の夫から「インフルエンザにかかったから帰ってこないほうがいい。もう1泊しておいで」と連絡が来たので、急遽2日目の夜は盛岡で途中下車。3日目は盛岡を散策してカフェや雑貨屋さんをめぐり、新幹線で東京に戻ってきた。わたしの中のネジはこの3日間で確実に緩み、そして、新幹線が東京に近づくにつれ、ゆっくりとまた締まっていくのを、流れる景色を見ながら感じていた。
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