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時々ふと思い出してはくすっとなる、そんな思い出の一部になれていたらいいな

髪を切るたびに、ふわふわと浮かんでくる思い出がある。

「髪を切らせてもらえませんか?」

大学2年生のある日、女性2人組に大学のキャンパスで突然声をかけられた。

話を聞いてみると、美容理容学校に通っていて、今度開催されるコンテストで髪を切らせてくれる人を探していた、ということだった。

当時、私の髪は長さが肩甲骨あたりまであり、染めてもおらず真っ黒で、「ストレートの黒髪」を探していた彼女たちの目に留まったようだ。

よくわからないけれど「役に立てるなら、ぜひ」と引き受けた。

その後、コンテストで私の髪を切ることになったのはそのお姉さんではなく、りゅうちゃんという同い年の男の子だったのだけれど、平安神宮のすぐ近くにある"みやこめっせ"(だったと思う。うろ覚え笑)のでっかい会場で、百人はいたであろう未来の美容師さんが緊張感に包まれながら髪を切っている光景は、なんだかとてもドキドキした。その時のコンテストの主催はヴィダルサスーンで、お題は肩にかかるかかからないかぐらいの長さのワンレングス。こけしちゃんみたいな感じ、っていうのが一番近いかもしれない。ばっちりメイクしてもらって、パーティードレスを着て、人生で初めて前髪も横も後ろもぱっつんになった私は、コンテストの緊張感と高揚感もあいまって、自分じゃないみたいな、不思議な気持ちでいたのは覚えている。

けれど、あの日を思い出すときに鮮明に脳裏に浮かぶのは、コンテストそのものよりも、表彰式のあと、りゅうちゃんとアシスタントでついてくれた子と、最初に声をかけてくれたお姉さん2人とそのお姉さんがカットした女の子と6人で連れ立って、鴨川までぶらぶら歩いて、

そして鴨川のほとりで、きれいにワンレングスに揃った髪を、普通のショートカットにしてもらったときのこと。

風がとても気持ちよくふいていて。よいお天気で。鴨川はさらさらと流れていて。

ジョキジョキと心地よく響くハサミの音と、切ったそばから風に流されていく髪と、コンテストが終わった開放感と、さっぱりとショートカットになった軽さと、みんなの笑い声と。写ルンですで撮った写真には、みんなの満面の笑顔が残っている。

ドラマかマンガにでも出てきそうな、ハタチの夏の日の思い出。

もうずいぶん前の出来事だけれど、今でも髪を切りに行って、ハサミの音に耳を傾けていると、あの日の、鴨川で髪を切ってもらったときの光景が、ふわふわと浮かんでくる。

昨日もそう。東京の美容室で、美容師さんに髪を切ってもらいながら、私は鴨川の午後を思い出して、ふんわりとあったかい気持ちになっていた。

りゅうちゃんたちがその後、美容師さんになったのかはわからない。けれど、元気にしてたらいいなあと思う。そして私も彼らの中で、時々ふと思い出してはくすっとなる、そんな思い出の一部になれていたらいいな、なんて。

こういう些細な思い出も、いつか消えていってしまうだろうから、こうやって時々、noteに書き留めていこうと思う。

#思い出 #はたちの夏 #旅しゃぶ更新部

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