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この世界は音であふれている

夏休みが始まった。蒸し暑い夏、締め切りの無い夏、私にとって夏とは開放感にあふれた自由そのもの。そんな夏の最初の数日の過ごし方と言ったら、ダラダラとベッドの上ですごすことにつきる。普段ならとても罪悪感を感じるこの行為も、いきなり時間的制約のない世界に放り込まれた私にしてみれば、こんなにも至福を感じることはないのだ。ベッドの上ですることと言えば、時間つぶしにYouTubeを見ることくらい。たまに、昼寝をはさみつつ、食事もろくにとらないまま、いつの間にかベッドの上で一日を追える毎日にもそろそろ飽き飽きしてきたところ。

つい最近まではいわゆる人気YouTuberさんの動画をひたすら見て、たくさん笑わせてもらっていた。ただ、こういうものは見すぎると飽きてしまうもの。どれだけコミュ力の高い人の日常をみても、他人は他人であり、その人たちの日常生活を覗き見るのはいずれ飽きてしまうものだ。

最近では、YouTubeでASMRを見ることが私の癒しとなっていた。耳に心地のよい快感を与えてくれるASMRは最高だ。YouTubeを見ながら、私もこんな音を自分で作れるようになりたいと考えていた。そんな時、ふとベッドでiPhoneを片手にYouTubeを見ながら、この状態のまま私が作れる音はなんだろうと考えてみた。すぐに思いついたのは、iPhoneを持っていない方の指で壁を軽く小刻みにタップするというもの。ほかにも、私のすぐ横に転がっていた飲みかけのペットボトルを軽く潰してみたり、指と指を耳のすぐそばですり合わせてみたりと、その場で作れる音をいろいろと試してみた。意外にも気持ちのいい音が作れたことに自分でもびっくりした。そして、気づいてしまった。今まで気が付かなかっただけで、こんなにも日常の中に、気持ちのいい音があふれているということに。

私はすぐさま、もっといろいろな音を作ってみたいという気分になった。今までどんなにベッドから立ち上がろうとしても、面倒くささに負けて布団の中に速攻戻っていたのに、日常に潜む様々な音を発見するためならと、スクっと起きあがり、しなければいけないことからしたいことまで、さまざまな作業に取り掛かり始めた。作業をすることが目的だと、なかなかやる気が起きないが、音を作ることが目的だと、びっくりするほど動きたくなる。その日以降、その場に横たわってYouTubeを見たいとは思わなくなった。横たわったままでは作れる音が一気に限られてしまうからだ。

本来なら、作業をする先にある目的を明確にして、それを達成するために頑張るべきなのだろう。けれども、その自分が到達したい何かがまだ明確でない場合、自分がわくわくすること、楽しめる目先のことを目標にするのも良いのではないか。そのおかげで今私は、作業自体も楽しんでできている。

これからは今まで以上に日常に潜む音に耳を澄ませていこう。人が作ったASMRを聞くよりも、自分で作る日々のランダムな音に耳を澄ませる方が、ワクワクする。いろいろな種類の音を作るという楽しさを目標にすれば、自然と行動したくなるものだ。ベッドでゴロゴロしている時間なんかよりもよっぽど楽しい。

日々のさりげない幸せに気がつけた一日であった。


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