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06.発掘した強みの奥にある強み

発掘された強みは、それだけではどのような意味があるのか良くわからないものもある。
意味は十分に良くわかると思うものであっても、実はその奥にもう少し深い強みが眠っていることがある。

ある女性経営者は、彼女が若い頃OLをしていたときの話を私にしてくれたことがある。
彼女は人生を通じて「食いっぱぐれたことがない」という強みを持つ。
安月給で長時間労働のフラワーアレンジメントの仕事を行っていたとき、食費に事欠く生活をしていても、必ずタイミングよく誰かが何かをご馳走してくれるという「できてしまうこと」を持っていた。

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もしこのような強みを発掘してしまったらどのように接客に生かせばいいのだろうか?
それとも、この強みは接客には生かすことができないので、諦めた方がいいのだろうか。

「食いっぱぐれない」という強みには、その奥にもう少しクリアな形の強みが眠っている。
なぜ彼女は「食いっぱぐれない」のか。
それはひょっとすると、「困っていると誰かが助けたいと思う」強みがあるからかもしれないし、「そもそも定期的に人が気遣ってくれる」強みがあるからかもしれない。
それとも「今一番必要なものが手に入ってしまう」という強みかもしれない。

もし「困っていると誰かが助けたいと思う」強みを持っているのであれば、接客では思い切った新企画に携わることに向いているかもしれない。
新しいことを始めることに困難はつきものだが、同僚もお客もみんな彼女を助けようとするだろう。

「そもそも定期的に人が気遣ってくれる」のであれば、世話焼きで面倒見のいい年配のお客の担当をすることで強みを生かすことができる。

「今一番必要なものが手に入ってしまう」のなら、書店員としてベストセラーの新刊本を扱う仕事がいいかもしれない。
どんなに売れても十分な在庫を確保することができるに違いない。

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強みを発掘したら、少し奥を覗いてみるといい。
その奥にもっと根本的な強みが眠っていることがある。


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卓越した接客者は必ず強みを実践している。
できてしまうことを、できてしまうように行う。
彼らの多くは自分の強みを正確に理解しているわけではない。
しかし彼らは感性で実践する。

ホラー映画にトリックを組み合わせたナイト・シャラマン監督は「シックス・センス」で一躍その名を有名にした。
ブルース・ウイルス演じるマルコムと、子役でハーレイ・ジョエル・オスメント演じるコールが主人公を務めるこの映画では、読者に謎を投げかけることで単なるホラー映画とは一線を画した。

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子役のコールは幽霊を見ることができるために、学校で仲間はずれにされ、精神科医をつけられる。
2人目の精神科医としてコールを診ることになったマルコムは、あるきっかけでコールは本当に幽霊を見ているのだと確信する。
そしてコールに向かって「彼らは助けを求めている。だから安心させてやりたい」と言う。

コールはその言葉の後はじめて見た女の子の霊の話を、勇気を振り絞って聞く。
映画の場面は変わり、その女の子の葬式を終えた家で、コールは母親が女の子を殺害したビデオを受け取り、それを証拠として女の子の父親に手渡す。

この映画で、子役のコールはもともと「霊を見ることができる」という強みを持っていた。
しかしその強みは「化け物」と決めつけられ、周囲から精神異常だと思われていた。
映画の序盤でその強みは、少年の人生を破壊する原因に思えた。

ところがその強みが、マルコムの助言と実際に女の子の家に行ったことで「実践」となって行かされた。
それまでは人生を破壊する原因だった強みが、実践されることによって強みの発揮へと変わった。

この映画のケースを見て、私たちは強みが理解ではなく実践によってはじめて意味を持つと知ることができる。
そしてさらに「霊が見えてしまう」というかなり特異な強みを持っていたとしても、それを生かすことのできる実践はあるのだということがわかる。
ありきたりに考えると、占い師やカウンセラー、霊媒師などの接客にその強みを生かすことができる。

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実践が接客者を卓越させるのは、この本でモデルとする4人の接客者にも共通している。

オステオパシーで治療を行う先生は、体や頭に手を触れると、どこがなぜ、どのように悪いのかがわかる。
頭であれば、頭蓋骨の骨の継ぎ目がどのようにずれているのか、右脳と左脳のどちらがより疲れているか、ストレスはどの程度か、脳髄液の状態はどうかなどを察知する。

幼児教育の先生は、あるときふとあるお客の顔が思い浮かぶ。
電話をしなくてはならない気になる。
そして電話をかけるとやはり問題が発生している。彼女は感じる。感じた時は電話をする。

美容師は、目の前に座るお客の顔を3秒見れば、そのお客をベストに導く適切なカット後のイメージが頭の中に浮かび上がる。
彼はまず見る。
見ればイメージが浮かび上がる。

スチュワーデスは、お客が伝えたいことを汲み取ることができる。
感情的であっても、言葉足らずであってもかなり正確に相手の欲する状態を理解する。
彼女はまず聞く。
聞けば分かってしまう。

彼らは皆、強みを実践する。
卓越する接客者が実践する姿は、素晴らしい接客者が能力を駆使する姿とはかなり異なる。
能力では、触れることで状態を理解し、ふと電話をしなくてはならない気になり、イメージが脳裏に浮かび、どのような言葉でも聞けば分かる、などの実践を可能にしない。

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ではどのように強みを実践すればいいのだろうか。
これから卓越を目指す人はどのようなところに注目し、気をつければいいのか。
卓越した接客者に「共通する答え」は残念ながら

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ただ、試行錯誤し実践を繰り返して身につけていく上で、ヒントとなる考え方はある。
まず強みをある程度特定することができたら、これまで能力で行っていたものを強みで行うように変える。
たとえばもしあなたが美容師で、目の前に座るお客のイメージの最終決定をするのに、これまでは顔の形、目の大きさ、顔の各パーツのバランス、肌の色、おでこの広さなどのパターンから、それぞれに合った組み合わせでイメージを導き出していた(能力)としたら、まずそれをやめる。

代わりに、ぱっと見の直感でこれがベストだと瞬時にわかってしまうイメージで、最終決定するように変える。
能力に上達があるように、強みにも上達がある。
強みが上達するように何度もトライしてみる。

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次に、理解することと信じることを無視する。
私たちは学校教育などを通じて、「理解しなければできない」「信じていないことは一生懸命になれない」などと考えているし、感じている。
特に「理解していない」ことはできるわけがないという思い込みは強い。
しかし実際には理解していなくてもできるし、信じていなくても一生懸命になれる。
鳥は自分が飛べることを理解も信じてもいない。
ただ、飛べる。

たとえば私たち日本人は、日本語の文法を正確に理解してはいない。
「京都へ行く」「京都に行く」の違いを正しく説明できる日本人がどれだけいるだろう。
しかし実際に、私たちは日本語を実践し、使いこなす。
できてしまう。

強みを実践するときは理解よりも実践を重視しなくてはならない。日本語を話すように強みを実践する。
箸で食事をするように強みを実践する。
これが強みを成果につなげるための方法になる。

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もし卓越した接客者や、接客者でなくても卓越者が身近にいるとしたら、その人を観察するというのも方法として悪くはない。
卓越者は次の章で詳しく触れる世界観を持っているため、その世界観を先に取り入れることは、逆説的に強みを生かすことにつながる。
とりわけ継続学習を行うという特徴は、卓越した接客者に共通しているので、彼らが自分のものにしている強みで、端から見てもはっきりと分かるものから自分の実践に取り入れてみればいい。

素晴らしい接客者は、高めた能力や才能、新しい能力で接客を行う。
卓越した接客者は、能力と共に強みを試行錯誤し、実践し、改善し続けることで接客を行う。
仕事に必要とされる能力を高めるのではなく、自分を発信源とする。
そして既に高める必要のない強みの応用を試す。



前話: 05.強みを発掘し生かす
次話: 07.弱みをカバーする



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