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01.感謝の手紙が教えてくれること

「ありがとう」の言葉ほど、接客者の心を温か包み込んでくれるものはないように思う。
接客の場面で口にしてくれても嬉しいけれども、やはり改めて手紙やメールが送られてくるとより嬉しいに違いない。

お客が改めて手紙やメールを送るということは、本当に感じるところがあったのだということの証明でもあるし、わざわざ書いて送ってくれるという手間をかけてくれたという意味がある。

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ほとんどのお客が後になってからわざわざ時間をかけて送るのがクレームであることを考えると、このような感謝の手紙とメールは、1人の人間としてもとてもありがたい。

普通あまりもらうことのないこのような手紙が、本当は何を評価して、何を生み出しているかを正しく知っている人はほとんどいない。
もちろん、手紙以外の場面からも何かが生み出されることがある。
ここでは、その結論を探すのに3つの手紙を取り上げて考えてみたい。

<手紙1>
先日は、最高の滞在をすることができ、私たち夫婦にとっても素晴らしい思い出となりました。
チェックインしてすぐに振る舞ってくださったウェルカムシャンパンですっかり気分はリゾートになりました。
海に沈む夕焼けはとても美しくて感激でした。
2日間の料理もイタリアン、和食と趣向が違って楽しめましたし、地の物の新鮮さが忘れられません。
翌朝のテラスでの朝食は某映画のような気分を味わうことができました・・・・・・

<手紙2>

先日の滞在は私にとって思い出深い最高のものとなりました。
まさか私の大好きな桃のタルトをバースデーケーキとして、しかも突然振る舞っていただけるとは思ってもいませんでした。
感激して言葉になりませんでした。
ろうそく代わりに、従業員の方が私を取り囲んで年の数の花火で彩ってくれたときは涙が溢れそうになりました。
後で聞けば、○○さんという方がさりげない話から桃のタルトのことを覚えていてくださったのですね・・・・・・

<手紙3>

先日の滞在ではお世話になりました。
食事時にうちの子供がわがままを言い出したとき、○○さんが膝を突いて一生懸命子供の話を聞いてくださったことがとても印象的でした。
その後、隣のテーブルで○○さんが、老夫婦の食後のドリンクのオーダーを受けているときに、確か「コーヒーは胃にもたれるかもしれませんから、そば茶をご用意いたしますか?」とおっしゃっているのを聞いて、素晴らしい接客だなと・・・・・・


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1つ目の手紙はサービスについて、2つ目と3つ目の手紙は接客について書かれている。
サービスというのは接客だけではなく、全体の雰囲気や、サービスで取り決めている物事(ウェルカムシャンパン)、ハードの素晴らしさ(夕陽が見えるように設計されていること)、基本サービス(地のものを使った食事、テラスでの朝食)について、全体的にどう感じたかを書いていることがわかる。

このような手紙を頂くことができれば、接客者はもちろんオーナーやマネージャー、料理人の全てに喜びを与えてくれるだろう。
サービスについて書かれた手紙は、お客のサービス利用に対する正しい理解を生み出していることがわかる。

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サービスをブランドにしてくれるお客を数多く抱えているということは、接客者も誇りを持ってサービスを提供することができるし、お客も安心して接客を受けることにつながる。

お客の手紙が、素晴らしい接客者と卓越した接客者を生み出す。
2つ目の手紙と3つ目の手紙は、どちらも接客について書かれている。
その違いは一体何なのか。

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2つ目の手紙では、手紙の送り主であるお客が、ある接客者の機転で忘れられない誕生日を過ごすことができたことについて、感激している様子を伝えている。
3つ目の手紙は自分の子供と隣の老夫婦への対応を見て、素晴らしいと評価していることがわかる。

2つ目の手紙は

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で、彼女がどう思い感じたかということを伝えている。
これに対して3つ目の手紙では、

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を伝えている。

2つ目の手紙は素晴らしい接客者を生み出し、3つ目の手紙は卓越した接客者を生み出す。

素晴らしい接客者は、プロセスによって顧客満足を感じてもらうことに注力している。
この場合だと、さりげなく「桃のタルトが好き」であることを覚えバースデーケーキにアレンジしたことや、アイディアを働かせて従業員が年の数の花火で祝ったことなどが挙げられる。

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さらに、お客に喜んでもらうという目的が上手く果たされている。
お客は感激し、おそらく感動し、最終的に良かったと喜んでくれたに違いない。
実際に2つ目の手紙として感謝の気持ちを伝えてくれている。

このような手紙は素晴らしい接客者を生み出す。
手紙の内容はお客自身が「私は感激しました」という主観でありながら、その意味は「あなたは素晴らしい接客者です」と証明してくれている。
素晴らしい接客者はこうして生みだされる。

卓越した接客者は成果の追及によって、顧客満足を得ようとする。
それはサービスを的確に完璧に提供することであって、お客に喜んでもらおうとすることが目的ではない。
この場合だと、サービスを満喫してもらうために子供の様子に気を配り、老夫婦が後でサービスに不満足を覚えないように(もちろん彼らにも気を配って)そば茶を勧めている。

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サービスを利用している食事の時間を楽しんでもらい、サービス提供の後に不備が生じないように一部分を変更(そば茶に変更)している。
お客は、接客者の対応そのものには深い感動を覚えないかもしれない。
しかしサービス全体を完璧にする接客という目線で見れば、素晴らしいということがわかる。

3つ目の手紙はこのことを気づかせてくれる内容になっている。
「あなたは素晴らしい(実は、卓越した)接客者です」ということを客観的になぜ、どうして素晴らしいのかということに気がつくことのできる人だけが、はじめて評価することができる。
卓越した接客者はこうして生み出される。

卓越した接客者であるキャビンアテンダントは、あるフライトでエコノミークラスより1つ上のクラスのお客35人を1人で担当した。
彼女は35人の乗客の名前を全て覚え、名前で話しかけるようにしただけではなく、あらかじめわかっているお客のドリンクの好みを頭に入れていた。
たとえばあるお客はワインなら白が好きか赤が好きか。
別のあるお客はコーヒーにミルクを入れるのか入れないのかなどを覚えた。
ある日本人男性のお客が、まず自分にそのような接客をしてくれることに興味と驚きを覚えた。
そしてキャビンアテンダントを観察すると、全員に等しくそのような接客を行い、誰かが特別であるわけではないことに気がついた。

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後日帰りのフライトで、キャビンアテンダントはその日本人男性が搭乗するところを見かけ、名前を覚えていたので話しかけた。
日本人男性のお客は、前回のフライトで自分だけではなく全員に対して高い接客を提供していたことと、前回一度きりではなく今回も(つまり毎回)そのような接客を行っていることを読み取り、家に着いてから航空会社に感謝と評価の手紙を書いた。

彼女はこれとは別に回収されていた顧客評価のアンケートも併せ、日本人としてはじめて、そのヨーロッパ系航空会社で表彰された。
日本の事務所にはしばらくの間彼女の写真が飾られ、直接対面したことのない後輩のキャビンアテンダントの間で伝説となった。



前話: 第20章 10.卓越者が行っている感性を磨く方法
次話: 02.卓越した接客者が一流の顧客を生み出す



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