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005« 2011年 はじめてオーロラを観た夜

2月。

カナダのホワイトホースにて。


滞在最終夜。
日中はドン曇りだったのだが、夜になって徐々に星が出始めた空。オーロラは雲があると観るのが難しい。
最終夜といっても、早朝5時前には空港に行ってないとならないため、実質あと5時間ほどの滞在となる。そのため、荷物はぜんぶもうまとめた。三脚とカメラも、さっきまで曇っていて無理かなーという空模様だったので片付けた。

ホワイトホース郊外のロッジにいる。宿泊者は、日本からの一人旅の男性(以下、Kさん)。かれこれ10年以上オーロラを撮り続けているベテランさん。と、自分。自分は今回が初めてのオーロラ。
ロッジのリビングにいたKさんに、空が晴れてきた旨を伝えると外に出ていき、これは出るかもしれない、と言う。えっそれじゃあ...と荷物から三脚とカメラを出して準備をしておく。

外に出て暗さに目が慣れると星がたくさん見える。非常に寒い。マイナス20度ほど。
ロッジの広大な庭は北方向が開けている。オーロラが出るのは北。空は晴れている。物理的条件は何一つ問題ない。あとはもう待つのみ。待っても出ないかもしれない。五分五分であった。宇宙天気予報である程度は分かるが、この日はあまり期待できないという数値。
この日の夜はホワイトホースに来て3日目の夜だった。3泊5日の短い旅程だった。今思うと、自然現象を相手に短すぎるとこの時の自分にアドバイスしたい。観測できる確率の観点だけで言えば、1日でも長いほうが良いに違いない。

極寒地専用のレンタル防寒具を着て屈強なブーツを履いているが、寒い。風がちょっとあった。空の様子は変わらないように見える。雲がどんどん北に流れてゆく。

いったんロッジ内に入り、茶を入れて暖まることにする。
Kさんはずっと外だ。一度は観たいと思っていたオーロラ、この人は何度も観て写真を撮っているんだな、と窓から10メートルほど先の雪の上にいるKさんを見ながら思った。単純にうらやましい。

と、Kさんがロッジに入ってくる気配。出たよ!と呼んでくれた。一応、窓から空も見ていたんだけど、それらしきものは見当たらずボケーっとしていたので慌ててカメラとともに外へ。

北の空の低い位置に横長の白っぽい雲のようなものがあるのは分かるが...???ってなっていると、Kさんはデジタル一眼レフカメラで撮ったものを見せてくれた。あの白っぽい雲のようなものが液晶画面の中では緑色だった。これオーロラなんだ!と、驚きと想像していたものとのギャップに衝撃を受けた。想像していたオーロラというのは緑色のカーテン状のもので、おそらく多くの人がそう思っているはず。
自分の目には、白い雲にしか見えなかった。
しかし、しばらく眺めていると、北の方角へ風に乗って流れていく雲に対し、北の空にあるそれは風の向きと違う動きをしていた。ということだけは分かった。
レリーズで何度かシャッターを切る。自分のカメラはフィルムであった。バルブ設定にし、30秒、1分、とKさんのアドバイスを聞きながら数枚撮った。

さっきよりもオーロラの色が濃くなったような気がする。緑白色に見えてきたのは気のせいか?そして、東から西方面に向かって伸びてきたオーロラが一瞬、ひらりと風になびく動きをした。カーテンというかスカーフが風にひらひら揺れているような。腕から脳天にかけてゾワっとした。髪の毛が逆立つ感覚だった。

フィルムがひとつ終了したので入れ換えなければ。カメラは三脚も含め、カチカチに冷たくなっている。バッテリー切れも何度か起きていた。フィルムは明るいところで入れ換えたいので、ロッジ室内より気温が低い玄関で。凍ったカメラをいきなり暖かい室内に持ち込むと結露してしまう。このバッテリーも終了間近なのか虫の息のようなフィルム巻き上げ音。弱々しい音が止まったのを確認しフィルムを換えた。

このとき、重大なミスに気付いてしまった。固定したはずのピントリングがちょっと触れただけで回転したのだった。固定するために貼ったテープはいずこ。ここへきて、今まで撮ったもの全て現像するまでどんな写りか分からないが(写っているかすら分からないが)、ピントが合っていないことは確定した。
もうしょうがないので、新しいフィルムはピントも合わせて巻き返しをはかる。北の空は、オーロラが2段になっていた。上の段と下の段はそれぞれ西へ東へゆっくり伸びては折り返している。

空港へ送ってくれるガイドさんの車が到着。タイムアウト。カメラをしまって空港へ。この旅の終了。 この夜に観たオーロラはレベルでいうと5段階中、3ということであった。

帰国してすぐに現像に出した写真はこうだった。


後日、Kさんからオーロラの写真が届いた。自分がいた最終夜のものからその次の夜、そのまた次の夜、と続いていた。自分が去った翌々日の写真ったら...。北の空の低い位置でなく、頭上?と思えるくらい高い位置から吊り下げられているどデカイ緑色のカーテン。カーテンの裾のほうは蛍光ピンクのような強い白色になっているじゃないか。Kさんの写真により、来年は倍の6泊だ、この時決意した。

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