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15歳で現代アートが好きだと思ったあの時のことを、15年後に群馬の原美術館ARCで思い出した話


私たち家族(私、夫、娘1歳)は休日によく美術館に行きます。こないだ群馬へドライブに行った先で、15年前の15歳の時に現代アートが好きになった場所の記憶が蘇ってきました。

私は現代アートが好きです。何故好きかというと、「私と同じ時代を生きている人が、私と同じ人や物を目にしながら生きているはずなのに、私には思いもよらない視点で世界を観ている事を教えてくれるから」。
美術を専門に勉強した事はないし、自分で制作することも最近はほとんどありません。でも自分で自由に動けるようになっ大学時代から美術館にはよく行ってきたので、色んな場所で作品を観た思い出が15年分ぐらい、心に蓄積されています。

美術史は全く詳しくありませんが、近代までの美術の中でも、綺麗だな、美しいな、(陰にも陽にも)感情が揺さぶられるな、と思う作品はたくさんあります。でも、私はやっぱり同じ時代を生きている人のインスピレーションから制作された作品により魅力を感じます。


自分が現代アートが好きだと初めて自覚したのは、15歳の時。田舎の自宅でテレビを観ていると、和の雰囲気漂うのにポップなタッチのアニメーションを制作している若い女性のインタビューが目に入りました。「このアニメの社会批判っぷりは痛烈で怖いぐらいだけど、まじまじ観ちゃうのはどこか懐かしい様な雰囲気があるからかな、どうしてだろう」と、多分こんな事を思いながら番組を見ていました。実はこのアニメーションの色彩は浮世絵から抽出されている事が、番組の後半で補足されました。「だから、鮮やかで渋い独特の色彩感覚がそのまま画面に映し出されていて既視感があるのか!」という事が分かり、その手法と美しさに、そのアーティスト『束芋』の事がすっかり好きになりました。

私は高校まで、新幹線を合わせても東京まで電車で6時間かかる地方に住んでいたのですが、その時期にたまたま家族で東京に行く用事がありました。「このチャンスに絶対に『束芋』観に行く!」と思った私は、東京で用事を終えた後、家族と別れて品川駅に向かい、ガラケーか何かで地図を見ながらてくてく駅から15分ほど歩いて原美術館に向かいました。

辿り着いた原美術館は閑静な住宅街の中にあり、「ここは本当に美術館なのか?誰かの邸宅じゃないのか?」と思ったことをよく覚えています。そろりそろりと玄関から入ると、後はもう。その日は束芋の世界にすっかり取り込まれました。なんせインスタレーションを観たことも初めてだったので、「この家みたいな空間の床、壁、天井も全部が作品なんだ!」と、空間そのものにすっかり魅了されました。「アートって美しいとか綺麗だけじゃなくて、心が躍るような楽しいものなのかも」と初めて思い、もっと長方形の四角に収まっている絵画作品だけではない作品を観たい!と心から求め始めたのがこの時なのかな。

その日は美術館中をくまなく探検して、展示の順路を少し外れた2階より先に、小さな部屋をいくつか見つけました。日光で黄ばんだ紙に可愛い落書きが散らばっている子供部屋みたいな部屋、一面が白いタイルの部屋、暗い中にデジタルの数字が1から9まで色んな速さで進んではまた戻る光だけが浮かぶ部屋。「また別の展示をしているのかな、他のアーティストの展示かな?」と思った部屋たちは、後に常設展示であることを知りました。


15年前なので記憶は断片的なものの、強烈な展示と空間の記憶は私の長期記憶庫に保存されたようです。その後も同じアーティストの作品を観たり、原美術館を訪れると、あの時の記憶がひゅっひゅっと蘇ってくるのでした。作品は、鑑賞者にとっても記憶装置となるのだなと今になっては思います。

5月末に親子で行った群馬県渋川市にある原美術館ARC(アーク)の展示では、こんな私の15年前の思い出を蘇らせる作品にまた出会えました。束芋のアニメーション、奈良美智のアトリエ、ジャン•ピエール•レイノーの白タイル、宮島達夫の電光カウンターの小部屋。もちろん、何度も会ってるのになかなか顔と名前が一致しない作品もけっこういます。それはそれで、「あ、また会ったね〜」と手を振りながら通り過ぎる知り合いぐらいのスタンスで、いつか機会がくれば記憶できるかなと思ったりして。

ちなみに今回、私が初めて会って一番面白いと思い心に残っている作品は、笹口数の『星座』。最初に観た時は、「???全然よく分からないし面白くない」と軽く素通りしましたが、別の部屋でキャプションをチラ見してからもう一度観ると、「なるほど〜!良い!好き!」と驚きと共に好きが形成されました。驚くって楽しいもんだ。

ヤノベケンジみを感じたオラファー•エリアソンの作品

あとは、今回は1歳児と片道2時間超の(実際には混雑あり3時間)ドライブは大丈夫かな〜とやや心配もありながら向かいましたが、原美術館ARCは新緑が光るとっても素敵な場所でした。
駐車場を降りたら緑の芝生が遠くまで広がっていて、原っぱにちょこんとヤノベケンジみのあるアルミ色の潜水艦の頭のようなオブジェが顔を出しているのがまた、楽しげな雰囲気をそそってくれるのが良かった。ちなみにオブジェはヤノベケンジではなくオラファー•エリアソンで、潜水艦の中に入ると「オラファー…このロケーションあなたにぴったりで最高やんね」ってなりました。

ちなみに1歳児は、展示室の中ではエルゴ(抱っこ紐)で前向き抱っこされていたのですが、それ以外は芝生を駆け回ってたんぽぽを見つけたりアンディー•ウォーホルの巨大トマト缶の周りをひたすらくるくる駆け回ったりして楽しそうでした。

  • 好きだった品川の原美術館の空気をもう一度吸いたい

  • 親子で自然を楽しみつつ現代アートに触れたい

そんな人に原美術館ARC、おすすめです。

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