見出し画像

タイムマシンがあるなら、中学3年生の8月に戻って、まこちゃんに自分の口から伝えたい

「タイムマシンがあったらどうしますか?」と以前聞かれたことがあった。
別に戻りたい過去はないし、戻る必要もないと思ってしまった。

でも、なんか答えないのも癪な気がした。
だから、もし、タイムマシンがあれば、中学3年生の8月に戻りたい。

中学3年生の9月、わたしは引っ越しをした。引っ越し先は同じ市内。受験生でもあったし、通えない範囲でもなかったので(バス通学にはなったけど)転校はしなかった。

当時、同じ団地に住んでいた「まこちゃん」といつも一緒に帰っていた。まこちゃんはおとなしい性格で、わたしは物事をズケズケ言う性格だったけど肝心なことは言えないところがあった。「父が家を買ったので引っ越すことになった」たった一言を中々言えないでいた。

まこちゃんは中学2年生の時にお母さんを病気で亡くした。帰り道は2人で帰っていて、うちの母がよくまこちゃんを気遣っていた。母親が生きている自慢のような気がして、わたしは母がまこちゃんに気を遣うのをよく思っていなかった。どことなく、まこちゃんに遠慮をしていたと思う。

引っ越しのことは先に幼馴染のなおちゃんに伝えていた。毎日一緒に帰っているので、とっくに知っているものだと思っていたらしく、なおちゃんは「エスちゃん引っ越しするね」とまこちゃんに言ったらしい。

「エスちゃん、まこちゃんビックリしてたよ」と言われて、後悔した。
自分で伝えなかったことを。

そのあと、まこちゃんは何もなかったように接してくれ、「エスちゃんと帰るのもあと少しだね」と言って、徒歩15分の距離を一緒に歩いた。

高校は離れ離れになり、時々会ってはいたけど、どんどん疎遠になっていた。

大学2年生の時、母が「成人式だからまこちゃんに声をかけよう!」と電話した。まこちゃんは振袖がないから出ないと言った。母は「おばちゃんに任せなさい!大丈夫!」と成人式当日に迎えにいく約束をした。どこまでうちの母は余計なことをするんだと思った。

けど、母は友だちの娘さんの振袖を借りてきて、ショーで着付けをやっている凄腕着付師に頼み、わたしとまこちゃんに振袖を着せた。そして成人式会場に送っていき、終了後はまこちゃんを写真館に連れて行った。

「まこちゃん、持ってるんでしょ!」と母は言った。

わたしは全く意味がわからなかった。
まこちゃんは「お父さんが持たせてくれた」と15,000円を出した。

男親で、兄と弟がいて真ん中に女の子一人のまこちゃん、お父さんはどうしていいか分からなかったらしい。

今となっては、何のためのお金だったか分からない。振袖を着せてくれるお礼だったのかもしれない。わたしの知らないところで、母はまこちゃんのお父さんに写真くらい撮りましょうよ、と話をしていたのかもしれない。

写真を撮って、一緒にご飯を食べて、まこちゃんを送って行った。確かそのあと、感謝の電話が来たと思う。

時々、まこちゃんを思い出す。
あれから27年経った。

たくさん一緒に遊んだのに、たくさん一緒に笑ったのに、成人式も一緒に振袖で写真を撮ったのに、思い出すのは「引っ越しを自分の口から伝えられなかった」こと。

タイムマシンがあれば、中学3年生の8月に戻って、ちゃんと自分の口から伝えたい。
卒業まで一緒に帰りたかったと伝えたい。

あの15分の帰り道、アホなことばっか言って笑ってた。
ごまかしてた。
伝えるチャンスは何回もあったのに。

まこちゃんは「お母さん」になったんだろうか。

「タイムマシンがあったらどうしますか?」と聞いてきた人に、このことを伝えたら「まこちゃんにまた会えますよ」と言ってくれた。

もう連絡先も分からないし、わたしは地元から遠く離れた場所に来てしまったから、会える可能性は低いと思う。

でも、もし会えたとしたら、ちょっと困ったような笑顔をするまこちゃんは、困ったような笑顔で笑いかけてくれるのだと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?