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対象関係論解説(前):部分対象関係とは?

このnoteでは、心理学の分野の1つである「対象関係論」の概要と、その用語である「部分対象関係」についての説明をしています。

(読了時間:約5分半)

対象関係論とは

対象関係論は0歳から2、3歳までの幼児期の母子関係を分析する理論です。フロイトの理論を元に、精神分析家メラニー・クラインが中心となって、研究・発展が進みました。

対象とは

この論で登場する「対象」の代表例は母親です。ただし、実際にはこの「対象」は母親以外の人物の場合もありえます。幼児の世話を行う固定的な人物であれば、性別や年齢、社会的関係には依りません。

(しかし、この文脈では「対象=母親」ということで話を進めます)

部分対象とは

発達の初期の幼児は、自分の欲求を満たしてくれる「対象」と満たしてくれない「対象」を別々の存在として認識しています。このような2人の対象を部分対象と呼びます。つまり、一人の「母」を、欲求を満たしてくれる「良き母」と、欲求を満たしてくれない「悪しき母」という2人の人物として認識しているのです。

1つの「対象」が良い面と悪い面を併せ持っていると認識できない状態を、分裂(スプリッティング)と呼びます。これは、0か100かに二極化し、中間(1~99)を考えることができない心理状態のことです。「白黒思考(black-and-white thinking)」や「全か無か思考(all-or-nothing thinking)」とも呼ばれます。

つまり、幼児は100%欲求を満たしてくれる存在だけを「良い対象」、それ以外の0~99%の欲求しか満たしてくれない存在を「悪い対象」として認識します。「良い対象の不在=悪い対象の現前」と「悪い対象の不在=良い対象の現前」どちらか2つに1に、キッパリ分かれているのです(※1)。

※1:現前とは、目の前にいるという意味です。

あかちゃんのあたまのなか

幼児の考え方には2つのポイントとなる部分があります。

1つは、自分と他人の境界が存在しないことです。幼児は周りある全て、すなわち世界を自分の一部・自分のものだと思っています。「一は全、全は一」の状態です。未発達な認識における世界は、イコール「対象」である母親になります。よって、これは「母子一体化」の状態とも言えます。

もう1つのポイントは、良いものは自分のもので悪いものは自分以外のものだと考えることです。言い換えると、自分や自分のものは理想化し、対する自分以外のものは脱価値化します。幼児の理想化は、上で述べた分裂と密接に関わっており、かつ、程度がはなはだしいため、特別に「原始的理想化」と呼ばれます。原始的理想化とは、良いところだけを持ち、悪い部分を持たないと考えることで、その対となる脱価値化は、悪いところだけを持ち、良いところを持たないと考えることです。

2つの部分対象関係

2つの部分対象に対して、幼児はそれぞれ違う関係性を結びます。この関係を部分対象関係と呼びます。その結果、両者に異なる感情や衝動を向けることになります。

良い「対象」は、理想化され、自己の一部として認識されます。この対象は母乳を与えてくれて暖かく包み込んでくれます。

それに対して、悪い「対象」は脱価値化され、自分ではない誰かとして認識されます。ここからは、この「悪い対象」について、より詳しく説明していきます。

悪い対象との関係

幼児は、欲求を満たしてくれない「悪い対象」に対して、強い攻撃的な衝動を向けます。憤怒するのです。

しかし、この攻撃衝動は不快で気持ち悪いもののため、幼児はそれを自分ではない誰かのものとして認識します(※2)。幼児の世界には、自分と良き母、悪しき母の3人しか存在がいないので、消去法でその「誰か」は悪い対象である悪しき母のものとして認識されます。

結果、幼児は悪しき母が攻撃的衝動を自分に向けているように感じます。これを迫害妄想と呼びます。迫害妄想を持つ幼児は、悪しき母を恐れます。これを迫害不安と呼びます。

※2:このメカニズムを「投影」と呼びます。ちなみに幼児のもつものは「原始的投影」という普通の(あるいは大人の)投影とは少し違ったものです。

まとめ

対象関係論は0歳から2、3歳までの幼児期の母子関係を分析する理論です。幼児は、自分の欲求を満たしてくれる対象と満たしてくれない対象を、良い対象と悪い対象という別個の存在として認識しています。このメカニズムは分裂と呼ばれます。

良い対象は自己の一部として理想化します。それに対して悪い対象は自己ではない部分として脱価値化し、攻撃的な衝動を向けます。しかし、幼児はむしろ悪い対象が自分に攻撃的な衝動を向けているように感じます。これを迫害妄想と呼び、それによって感じる恐れを迫害不安と呼びます。

おわりに

私は、このnoteを本題に入る前の前提知識の説明のために執筆しています。……実は、本題は前提部分と合わせて既に一旦書き終えているのですが、文字数を確認したところ5000字を超えていました(気合入りすぎ!)。

なので、前提部分を切り分けて、独立した1つの内容としてリライトする方が望ましいと判断しました。今回で半分くらいまで説明できたかな、と考えています。

後編は、このような考え方の幼児がどのように成長していくかを描きます、よろしければ、スキを押していただければ幸いです。


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