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防衛機制によって万能感は保たれる

このコラムでは、万能感のおさらいと、それを保つときに用いられる3つの防衛機制について説明してます。防衛機制とは、心を守るためのメカニズムのことで、この文中では万能感を守り、保つために用いられます。

(読了時間:約5分半)

おさらい

「万能感」は、何でも知ってるし何でもできるという感じを指します。つまり100%できる状態です。

その反対の「無力感」は、何にも知らないし何もできないという感じを示します。100%できない状態です。

しかし、人間はできることとできないことの両方を併せ持った存在です。このできる感じを「有能感(あるいは自己効力感)」と呼びます。人によって、できることの多さは異なります。

しかし、何でもできる人はいないはずです。そのため、万能感や無力感は、現実ではなく幻想に基づいているのです。

万能感の前提となる防衛機制

万能感は、無力感と表裏一体です。その前提となる心の仕組みが、「分裂」と「同一視」です。

できる自分とできない自分の分裂

万能感を持つ人は、できる自分とできない自分が全く異なる存在に感じられます。このような状態を、心理学では「分裂(スプリッティング)」と呼びます。つまり、良いと悪い、できる自分とできない自分をバラバラの別人と認識するのです。

また、分かれている一方に注目しているときに、もう一方を否認します。「否認」とは、あるものをないとすることです。それの代表例は無視です。

たとえば、できる自分に注目するときは、できない部分を無視します。そのため、万能感を持ち、何でもできる気分になり、傲慢になったり横暴になるのです。

逆に、できない自分に注目すると、できる自分が目につかなくなります。すると、無力感で胸がいっぱいになり、悲観的または抑うつ的になります。

本当は、できる面とできない面を併せ持っているにも関わらず、一方の面だけを強調して捉えるため、万能感や無力感に陥るのです。

このような、分裂と否認の組み合わさった考え方を、「二極思考」あるいは「白黒思考」と呼びます。二極思考を持つ人は、人によってコロコロ態度を変えたり、同じ相手でも極端に異なる接し方をします。それどころか、自分自身に対する評価も極端になります。そのため、対人関係が不安定になりがちです。

自分と他人を同一視

自分と他人は、できることやしたいことが異なります。なぜなら、別々の人間だからです。

しかし、万能感あるいは無力感を持つ人は、他者と自分を「同一視」、つまり同じ人間とみなすようになります。

他者と同一視を起こすと、その相手と自分が同じ感情を持ち、同じことができると思い込みます。そのため、他人が良ければ自分も良いし、他人が悪ければ自分も悪いと思うのです。これは、自他境界が曖昧とも言い換えられます。

たとえば、ある子どもがテストでいい点を取れなかったとき、その親が怒り狂って子どもに罰を与えたとしましょう。これは、親が子どもと自分のを同一視しているからこそ起こる現象です。なぜなら、子どものテストの点が悪かったことを、子どもの問題ではなく、親自身の価値の否定として捉えたため、それを否定し返したくて怒り、帳消しにしようとして罰しているからです。

万能感を保つメカニズム

これまで述べた「分裂×否認×同一視」を組み合わせることによって、万能感は維持されます。すなわち、できる良い自分とできる良い他人を同一視し、そうではない方をまとめて否認するのです。

否認は、無視するだけに留まりません。

相手を罵り嘲ったり、過小評価することも否認のひとつです。このような否認を「脱価値化」と呼びます。悪い相手の価値が下がるほど、相対的に良い自分の価値は上がります。

さらに、分裂を起こした人は、自分を棚に上げて相手を罵りがちになります。これは、否認のひとつである「投影」というメカニズムのためです。「投影」とは、自分の否認している(本当は自分の)ものを、他者のものとすることです。このとき、相手の良い面や自分の悪い面は無視されます。

たとえば、攻撃的な人が、逆に他者から攻撃されると「攻撃するな」というのです。それを聞いた人はおそらく「お前がいうな」と思うでしょう。しかし本人からすると、自分の攻撃的な面を否認し、他者に投影をしているため、「自分は他者を攻撃などしていない(または軽度な攻撃しかしていない)し、相手は攻撃によって重大なルール違反をしている」と思うのです。

さらに、万能感は「自分は優れていて特別だ」「自分は何をしても許される」という考え方を生み出します。ですから、自分は攻撃してもいいけど、他人は攻撃してはいけない。という不公平な考え方を持つのです。

万能感には信者と生贄が必要だ

万能感を保つためには、信者(自分の良い部分を写す鏡)と、生贄(他者の悪い部分を写す鏡)が必要です。うまくいっているときは、信者だけで構いません。

しかし、万能感は幻想に基づいているので根本的に脆いのです。だから、悪いことがあったとき、悪い面を全て投影して切り離せる犠牲者が必要になるのです。その「羊さん」が、悪い面や無力感を担って、否認を受け入れてくれるからこそ、万能感は保てるのです。逆に言えば、万能感はひとりきりでは保てないのです。

まとめ

万能感は次の3つの防衛機制から保たれます。

①分裂
②否認
③同一視

おわりに

万能感を保つメカニズムは複雑です。その原因は、自他境界の曖昧さにあります。誰の視点かによって、良し悪しが誰のものかか変わるため、シンプルな論理展開を作るのに苦労するのです。

そのため、今回は図を多めに使って、できる限り分かりやすくなるように心がけました。

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