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鎌倉大仏ハイキングコースという美術館

 山に囲まれた木立の中を歩きたい、こころ静かにお寺や神社をみたい、果てしなく広がる海を眺めたい・・・そんな欲張りな希望を叶えてくれるのが鎌倉ハイキングコースです。北鎌倉から葛原丘神社を通って、化粧坂を下り鎌倉まで歩きました。
浄智寺横の道がハイキングコースにつながっているのですが、まず、浄智寺山門の前でたちどまります。 数10メートル手前までは普通の民家があるというのに、見えない結界があるようで、この山門の前に立つと自然と背筋を伸ばしています。背筋を伸ばしたまま、甘露の井に湧き出る水の音、竹やぶの中の鶯のさえずりに耳をかたむけ、石段とその先の『寶所在近』と掲げられた山門を眺めているうちに、日常から違う世界に入ったような気分になるのです。人を簡単にはよせつけない威厳がありながら、心の静けさを取り戻させる不思議な空間です。
 お寺の横の小路をしばらく歩くと、陽があたる小道で猫さんが遊んでいました。たんぽぽを前にした猫さんがかわいくて、ここでもしばらく立ち止まって眺めていました。
 傾斜を少し上ると尾根に出て、葛原丘神社まで。神社の前の公園から谷戸にある民家と、鎌倉の山々、その向こうに海が広がる景色に出会えます。
『遠き空蒼くきはまる相模灘春のおとづれこぞとひとしき』
立原正秋はこんな風景を見ながら詠んだのではと思いながら、また、その風景を眺めます。
 こうして少し歩いては(いいな)と思った景色の前で立ち止まる歩き方は、展示してある絵に時々釘付けになりながら、美術館の中を歩くのに似ています。鎌倉のハイキングコースで私が切り取った風景は、お寺のふるびた石段、木の幹や小枝、緑陰という額縁の中に具合良くおさまっているのです。

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