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ヴァーチャルミュージアム大塚国際美術館

昨年からずっと行ってみたかった徳島・鳴門市の「大塚国際美術館」に9月に行くことができました。しかも雑誌の美術特集の「取材」として。こうやって、行ってみたい場所があれば、企画を練ってに通せば経費で行けるのも編集者の特権です(笑)。

絵画から物質を取り除いて残るもの

前職で、チームラボの猪子寿之さんとフロリレージュの川手寛康さんの対談を企画したことがありました。

2016年の記事なのでもう3年も経ったんだなぁ。この対談の狙いは、未来の食糧危機をテクノロジーでどうやって乗り越えていくか、ということで猪子さんの「物質からの解放」が、インターネットが作り出す未来像を適格に言い当てていると思ったからです。

それも境界が消滅したひとつの例。芸術でも同じことが言えます。インターネットが登場する前は、人間のなかから生み出された表現は、物質とくっ付かないと存在できなかった。例えば、絵画ならば絵の具やカンヴァス、音楽ならばレコードのように。人間はただ感動し、エクスタシーを得たいだけなのに、それを得るには物質が必要だった。だから人類は、「物質が感動を与えてくれる」と勘違いしてしまった。
しかし、デジタルの概念によって、例えば、写真は写真単独として、音楽は音楽単独で、物質を介することなく存在できるようになった。これにより、物質の価値が低下して、「境界」という概念もなくなってきているんです。なぜなら、物質が境界を生んでいたからです。本来、脳の中は境界がないのです。

これ以降、さまざまな作品やプロダクト(じつは僕にとっては、料理もその一つ)に対して「物質」ではなく、その芸術や創作そのもから感動が得るように向き合いたい、と思うようになりました。

絵画鑑賞でも、オリジナルの絵よりも、印刷物だったり、インターネットでその作品に触れる機会が多い。実物を見なくても、そこから画家が何を描こうとして、どんな関係性のなかで制作が決まっていったということを知って鑑賞しているなと。だとすれば、実物は布の上に置かれた絵の具の集合であるとも言えて、「絵画は、どの瞬間に、絵の具(物質)から絵に変わるのか」など考えるようになりました。

そんななかで、確かゴッホの消失した幻の《ひまわり》が陶板画として、しかも実際の絵と同じサイズで再現されていることを知り、大塚国際美術館の存在を知りました。

これは、絵画から物質を取り除いたインターネット的な絵画鑑賞法だ

大塚国際美術館の開館は1998年。陶板画自体の構想自体は1970年代からあったといいます。インターネットの歴史は1960年代とされていて、それからはやや遅れますが、それでも創作物の物質性を取り除き、創作そのものに触れるというインターネット的な人間と創作の関わりについては、かなり革新的だったのではないでしょうか。

物質の価値を取り除いた絵画鑑賞で得ること

まず迎えてくれるのは、ヴァティカンにあるシスティーナ礼拝堂内の天井壁画、ミケランジェロの《最後の審判》と《天地創造》。聖書の最初の説話《天地創造》と最後の説話《最後の審判》が一つの空間に描かれています。2018年の紅白歌合戦で米津玄師さんが《Lemon》を歌ったことで、一気に認知度があがりました。

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大塚国際美術館には、1000点以上の世界の名画が陶板画になって、時代やテーマごとに展示されています。リアル世界美術大全集。1点1点所蔵館に陶板画制作の許諾を取ってから、作品を念入りに調査して、手作業で完成させていきます。

これだけの作品を実物を見にくとなると時間もお金も膨大にかかるし、このように一堂に介することは不可能です。しかし、それが実際に目の前にあったときに、実物の作品の貴重性(物質な価値)がないことで、個人の感動が純粋にあらわれてくることが実感できます。

つまり、本当に自分の好きな絵や、好きな画家、絵の色合いや、作品の意図、そのものの大きさなど、本来「創作」とよばれるものと向き合い、純粋に楽しんでいることに気づきます。こんな絵画鑑賞体験は初めてです。

陶板画を見て、自分が好きになった絵です。

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1日楽しめる大塚国際美術館へ行ってみよう!

もちろん実物の物質性もすばらしいと思います。高価な絵の具を使っているので、300年とか経っても、しっかりとカンヴァスに定着していることとか、その作品がある空間演出など、実物を目の間にしたときだけ感じられることもあると思います。

しかし、大塚国際美術館では、それとまったくことなる心の動きがあります。

「本物」と「偽物」の対比とは異なる価値観によってつくられたヴァーチャルミュージアム。大塚国際美術館は、自分自身が絵画に何を求めているのかを知ることができる、世界で唯一の美術館です。ぜひ、その新しい価値観を体験してみてください!

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