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Art|「ドラえもん1コマ拡大鑑賞展」を観てきました

3月13日から、渋谷PARCO8階で開催されている「ドラえもん1コマ拡大鑑賞展」の内覧会に、光栄にも小学館さんにご招待いただき展示を鑑賞してきました。

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展覧会名そのままにマンガ『ドラえもん』の1コマだけを展示した企画展で、作品はすべて、藤子・F・不二雄先生による原画を高解像度でスキャンして、拡大印刷したものです。拡大された場面は、絵画作品のように額装しされています。ですので、展覧会はさながら絵画の展覧会のようです。

原画をスキャンしていますので、実際に本になったときは見えなくなってしまう修正(ホワイト)の跡や、吹き出しの手書き文字、写植を貼り付けた跡まで見てとることができて、貴重な生原稿を間近に見たような気分です。

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今回の展覧会は、たとえば「ドラえもん名場面集」というわけではないので、物語のハイライトやエンディングなど、読んだ記憶が思い出されるようなものとは少し異なります(もちろん名場面もなかにはありますよ!)。こんな場面があったのか! と発見や驚きを楽しむ展覧会といえるでしょう。

展覧会は〈漫画表現〉〈構図〉〈顔・表情〉〈ワイド〉の4つのテーマで構成されています。

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シルエットに水蒸気が沸くような形でだけで「怒り」、飛び散る汗で「焦り」が表現されています。

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言葉を飲み込むほど驚く。

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1コマだけを見ていても、いたるところに仕掛け見せるがありまので演出効果を探っていくのもいいですし、作品の横には簡単なストーリーが書かれているプレートが添えてありますので、前後のコマを想像しながら鑑賞しても楽しそう。さまざまな楽しみ方ができる展覧会です。

改めて1コマだけを見ていると、藤子・F・不二雄先生がマンガというフォーマットのなかで、既存の表現を刷新して、より多くの情報や登場人物の感情をいかに豊かに表現したいと考えて、日々挑み続けてきた歴史を垣間見ることができます。マンガという表現媒体の奥深さ、無限の可能性を体験できる展覧会といえそうです。

1コマだからこそ見えてくる作者の姿

僕自身は、この1コマ展を見ていて、19世紀末に起こったウィーン分離派やクリムトの作品のいくつかを思い浮かべました。

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たとえば《未来の町にただ一人》という作品(『小学館四年生』1979年7月号)は、細長いコマに正確な線遠近法を駆使することで生まれた幾何学的な世界が近未来を予見させます。手前にポツンと描かれているのは、タイムマシンで2125年のトーキョーにやってきたのび太です。

この細長い画角と直線を意識した構図は、クリムトも在籍したことでも知られる「ウィーン分離派」の展覧会ポスターを思い起こします。

※もちろん分離派展やクリムトの作品の展示はありません!

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さらに《大長編ドラえもん のび太の恐竜》(『月刊 コロコロコミック』、1980年2月号)の1コマ。タケコプターで空を飛び、目的地にむかうドラえもんとのび太たちを描いた場面も同じように、クリムトの失われた作品を連想させます。

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それは、クリムトがウィーン大学に描いたものの失われてしまった天井画《医学》《哲学》《法学》です。

医学哲学法学

この3枚は宇宙を描いたとされていて、直線的に上昇していくクリムトが構成した人物たちの姿は、空を飛ぶドラえもんとのび太たちに見えてきます。

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原作の最終回、《さようなら、ドラえもん》(『小学三年生』、1974年3月号)では、未来に帰ってしまったドラえもんに迷惑をかけないようにのび太は、一人で強く生きていくことを決心します。この1コマでは、その決心したそばから思いがけずにドラえもんの名前を読んでしまいそうになったのび太が描かれています。

いつもは何気なく発していた言葉をぐっと飲みこむのび太の表情。大胆にトリミングされて、緊張感を感じさせます。

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大胆なトリミングは、妖艶な表情をぐっと際立たせたクリムトの《ユディトI》を思い起こしました。

藤子・F・不二雄先生がクリムトやウィーン分離派の作品に影響を受けていたかどうかは、正直、僕にはわかりません。

しかし、19世紀末のヨーロッパ絵画自体が、日本の浮世絵の影響を多分に受けていることもあって、縦長の構図や左右を切断したようなトリミングの源泉は、そこにあることは容易に推測できます。とうぜん日本人として浮世絵についての知識は藤子・F・不二雄先生にもあったでしょうから、共通するような分はあったとしても不思議ではありません。

そういった西洋美術からの影響や共通点を想像しながら1コマを見ていくのは、とても楽しい鑑賞になりました。「あ、これもしかして藤子・F・不二雄先生もあの絵をイメージしているのかな?」みたいに。

今回、僕はクリムトとの類似性を見つけましたが、違う人だったら、また違うアーティストとの類似性を見つけることができるかもしれません。

そういった発見は、これまでマンガをストーリーで追っているときには見えずらかったもの。今回のように1コマずつ見ていくことで気づけたことでもあると言えます。マンガをまったく新しい角度から見ることで、また違った作品の魅力、著者の魅力を見つけられる。

ドラえもん1コマ拡大鑑賞展」は、マンガの見方に新しい画期的なアイディアを秘めた展覧会であるともいえそうです。

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今回の展覧会は、すべて写真撮影がOKとのこと。展示室の最後には、驚くのび太とコラボできる写真エリアもありますので、来場の記念撮影に。

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ミュージアムグッズでは、今回の展覧会の直接的なアイディアの源になった画集『THE GENGA ART OF DORAEMON ドラえもん拡大原画美術館』(作/藤子・F・不二雄 編/橋本麻里)も販売されています。図録代わりにぜひ!

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ドラえもん1コマ拡大鑑賞展
会期:2021年3月13日(土)~4月18日(日) 時間:11:00~20:00
場所:渋谷PARCO8階「ほぼ日曜日」渋谷区宇田川町15-1 入場料:無料
開催協力:藤子プロ、川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム、小学館

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明日はFood。

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