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Art|イギリス絵画がなぜヨーロッパ絵画史にあまり出てこないのかを考えて思ったこと

イギリス絵画」と言われて思い浮かぶ画家やジャンルはありまか?

オフィーリア》(下、1枚目)の画家ジョン・エヴァレット・ミレーや、《プロセルピナ》(下、2枚目)などでジェーン・バーデンを繰り返し描いたダンテ・ガブリエル・ロセッティなどの「ラファエル前派」が、イギリス絵画のなかでは、どこかで観たことのある作品ではないでしょうか。

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Sir John Everett Millais, Bt 1829-1896
Ophelia 1851-2 Photo © Tate

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Dante Gabriel Rossetti 1828-1882
Proserpine 1874 Photo © Tate

2020年11月から21年1月まで、上野の森美術館で「ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING&QUEEN展 ―名画で読み解く 英国王室物語―」という展覧会もありましたので、肖像画が有名なのかな、ということをご存じの方もいらっしゃると思います。

しかしながら、このイギリスの肖像画の系譜を紐解いていくと、「王の画家」とよばれ、ドイツから海を渡りイギリス王家の画家ホルバイン(下の1枚目)やそのあとを継ぐようにフランドルから来たヴァン・ダイク(下の32枚目)といった画家が王室の肖像画のジャンルで特異的なものを生みますが、それでもヨーロッパのブームが遅れて届いてローカライズされたものといえます。

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ハンス・ホルバイン(子)《大使たち
1533年 ロンドン・ナショナル・ギャラリー

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アンソニー・ヴァン・ダイク《英国王チャールズ1世の肖像
1635年頃 ルーヴル美術館

近代になって古典主義のカウンターカルチャーとしてロマン主義運動が生まれるなかでターナーという画家が登場したり(僕自身は印象派の先鞭をつけてるのではないかと思っている)、その後ラファエル前派というルネサンス以前の神話の世界とロマン主義を融合させるような芸術運動が生まれ、自国の大陸にも影響を与えていっているのですが、ヨーロッパ史のなかでみたときに大きくクローズアップされることが少なのです。

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ウィリアム・ターナー《雨、蒸気、スピード-グレートウエスタン鉄道
1844年 ロンドン・ナショナル・ギャラリー

演劇ではシェークスピア、学者でいえばニュートン、クラーク、音楽でいえばビートルズを生んだ国なのになぜアートの分野で知られているアーティストはほとんどいません。産業革命を生み、第2のヘゲモニー国家を形成したといわれ、19世紀の情報を掌握して世界の中心になったよう国なのに、自国の芸術が生まれなかったのはなぜなのでしょうか。

あまりこのことを指摘している美術本はなくて、基本イタリアとフランスを主軸にして展開されています。根本にあるルネサンスをいかに偉大な存在として位置づけるか、そのために古代ギリシア・ローマ文化を軸にして展開することを前提にしているからなのかなと感じています。

つまりその軸から離れたとことは、主流として紹介しずらくなる。ローマ帝国は、グレートブリテン島を侵略しているので、ローマ帝国文化圏といえばそうなのですが、とはいえ北の国境であることにはかわりません。そういう意味では、もともとのケルト民族の文化とグラデーションが起こってもおかしくない。

ですので、ヨーロッパ美術の主流の歴史観から見ると、どうしても辺境のローカルな美術がある、という認識になり紹介できないということになってしまっている。しかし、イギリスそのものを軸に置いてみれば、ヨーロッパ大陸の美術こそ異端であることも多く、その点ではいわゆる「視点の違い」ということなのかなと思います。

そう考えると西洋美術が大切にしてきた調和(ハーモニー)というものを打ち壊すようなロックミュージックが、ヨーロッパの辺境に生まれたことはどこか納得できる気がします。

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明日は「Food」。


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