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アジアのベストレストラン50が日本・武雄市で開催

「アジアのベストレストラン50」(以下、ABR50)は、2002年、イギリスの飲食専門誌『レストラン・マガジン』がスタートさせた「世界のベストレストラン50」のエリア版で、「ラテンアメリカのベストレストラン50」とともに、2013年にはじまったレストランランキングだ。

審査員が過去18カ月以内に訪れた店の中から良店を投票し、その結果がランキングになるのは「世界のベストレストラン50」と同じ。アジアを6つのエリアに分け、各地の52名の審査員(シェフ、ジャーナリストなど)になっている。

美食都市としてABR50をうまく利用したバンコク

これまでシンガポール(13~15年)、バンコク(16、17年)、マカオ(18、19年)ときて、日本が4つめの開催国になるわけだが、過去の開催都市と異なるのは、一流レストランがひしめく美食都市ではなく、佐賀県武雄市というローカルな場所であることだろう。2018年の「世界のベストレストラン50」がスペインのビルバオという地方都市で開催されたことはあるが、世界的に無名な(有田という名前は料理界では器を通じて、多少メジャーだが)町で開催されるのは、初めてのことだ。


この表は、開催国のランキング入りした店の数をまとめたものだ。2016-17年に開催国になったバンコクは、開催2年目以降にランクイン店を伸ばしている。バンコクも、微増ではあるが(増加率で見れば200%)2年目にランクイン店が増加している。

また、2017年の2回目のバンコク開催では4店、2019年の2回目のマカオ開催では1店が新しくランキングに入っていることを見ても、開催国のレストランにはスポットが当たりやすいといえるだろう。一方で、シンガポールの強さを見ても、継続して開催することができれば、ランクインする店が増えるということも言えそうだ。

1つのデータではあるが、これを見るだけでも日本で開催されることは、日本のレストラン、さらにはまだスポットライトが当たっていないレストラン(福岡をはじめとする九州、中国地方)に注目が集ることになり、とくに東京集中の日本のレストラン分布を刷新する可能性があることは、個人的にはとても良いことだと思っている。

どれだけのお客さまを楽しませて国に貢献したか

6月6日に発売される料理王国7月号では、僕が取材しまとめた、ABR50の2019年のランカーシェフへのインタビュー記事が掲載されている。

そこで長谷川在佑さん(傳)のコメントとして「ABR50は、1年間でどれだけのお客さまを楽しませて、どれだけその国に貢献したかが、が評価されたランキングになっている」という趣旨の内容を使わせてもらった。記事にはないが、これと同じようなことを川手寛康さん(フロリレージュ)も、話してくれた。

現在、レストランへの評価は、多岐にわたる。ほんの20年前、ミシュランガイドすら日本になかったころから考えると、食べる側から考えればとても便利な世の中になった。一方で、レストラン側からは、自店の伝えたいこととは違う部分で評価される(多くの場合はマイナスになる)こともある。ちなみに、これは情報の民主化によって、階級化されてきたレストランに起こっている構造改革の「痛み」ではないかと思っていて、レストラン情報の民主化は、全体としては良いことだと僕は考えている。

おいしさを純粋に評価する(近年はそうともいえないが)「ミシュランガイド」に対するABR50ならびに「世界のベストレストラン50」の評価は、「人を楽しませた店」「社会に貢献した店」という評価基準をもつとすれば、おおいに納得できるし、レストランにとってはいいことだと思っている。

レストランもディズニーランドも同じ選択肢のひとつ

レストランを「おいしい」で評価しすぎると、ほかのエンターテインメントと同じ土俵にあがりずらくなると、僕は考えている。ユーザーにとっては、レストランでの食事も、映画を見るのも、旅をするのも、ディズニーランドに行くのも、ゲームをするのも、スポーツ観戦をするのも、すべて同じ選択肢のひとつであって、そのなかで、自分にあったものにお金と時間を使うからだ。

前回のnoteでも書いたが、「おいしさ」は、定量的ではなく、とてもはかないもので、個人の経験によるものが多い。「おいしさ」だけでは、ほかのエンタメと比べ他者との感動の共有をすることが難しいのではないかと思っている。それを打開して、感動を共有するためには、「人を楽しませる工夫」や「食を通じたソーシャルな関り」が、レストランを他のエンタメコンテンツと同等にわたりあうために必要なものなのではないだろうか。

もちろん「おいしさ」は、必要だ。しかし、日本のレストラン・飲食店のレベルはおそろしく高い。物事を掘り下げて探求していくのが好きな国民性もある。だから、だまっててもレストラン・飲食店はおいしいものを作ってしまうだろう。だからこそ、「人を楽しませる工夫」や「食を通じたソーシャルな関り」を意識的に重ねていくことで、ベーシックにある「おいしさ」に付加価値をつけることになるはずだ。

その付加価値がこそが、これまで飲食業界マネタイズできていなかった(避けてきた)部分でもある。「おいしさ」とともに「楽しさ」や「社会との関り」にも対価が支払われるようになれば、労働環境や人材不足に嘆く飲食業界にとってもプラスになると僕は信じている。

トップ画像は、アジアのベストレストラン50の公式Facebookページの画像を流用いたしました。

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