見出し画像

Human|料理人 大野尚斗さん

以前、土曜のnoteの日に、料理人の大野尚斗さんを紹介する記事を書きました。そうしたら、Twitterでご本人からDMをもらい、毎週The BurnでやっているMAGARIでお会いすることになりました。

バックパッカーのサラブレッド

大野さんは1989年生まれの現在30歳。2020〜21年に都内で独立を目指している料理人です。

え? 普通に日本にいるの? 僕が読んだ「レジス・エ・ジャック・マックス・マルコン」の新鮮で清々しく感じたnoteはなんなの?

なんと、お会いして聞いてみると、あの投稿は、3年前の初めてのヨーロッパのバックパッカー旅ったとのこと。すごい、3年も前のことをあんなに高い描写力で書けるなんて、さらに驚いた。末恐ろしい文才。

現在、大野さんが書いているnoteは、1度目のバックパッカー旅で、その後もう一度ヨーロッパへ。そして、2月中旬からは、3度目のバックパッカー旅に行くそう。今回も北・南米と北欧になるそうです。

海外の旅の経験が豊富すぎて、現在noteが追いついていない様子。このままでは、旅を書き終える前に寿命がきちゃうんじゃないか。大野さんは、そんな気にさせるような行動力のある人です。

ちなみにご両親ともバックパッカー歴のある方で、旅先で出会われたとか。

お金がなくたってなんとかなるんだから、海外に行きたいと思っている料理人さんがいたら、即行ったほうがいいですよ」と若い料理人に向けてアドバイス(いや、でもなかなか関係を断ち切って海外に行くのは難しいっすよ。けっきょく、お金が問題じゃなくて、一人ぼっちになるのが、怖いんす)。

厳しさならアメリカでNo.1のレストランとは

福岡県の高校を卒業後、ニューヨークにわたり、料理学校のカリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ (The Culinary Institute Of America、略称:CIA)に入学し、2年間料理を学びました。その後、ニューヨークの「The NoMad Restaurant New York」(現在は、世界のベストレストラン50の2017年版で世界1位になったEleven Madison ParkのシェフがDaniel Hummがオーナーの一人)に勤めたのち、シカゴのミシュラン三つ星で、世界のベストレストラン50 の2019年版で37位に入った「Alinea」というレストランに入ります。

この店が超絶厳しいレストランだったそうです。

営業中は、シェフの指示に応える以外の言葉や音をたてることは禁止。音が必要な調理は、うつくしい料理にならない、というシェフのGrant Achatzの考えが反映されている。さらに、営業中のキッチンでは、どんなに短い距離でも、全力疾走で、1日20時間以上、勤務することもあったそうです。

大野さんはなぜAlineaを選んだのでしょうか。大野さんいわく「アメリカで一番厳しいレストランに行きたいので紹介してほしいと頼み、紹介してもらったレストランでした」と。軽く言っていますけど、仕事に行ってみたら、「じつは、めちゃくちゃ厳しかった、上司は選べないようね」ということはありますよね。

大野さんの場合は、そんなレベルの話ではまったくないのがすごい。自ら厳しい場所に身をおこうと志願していったわけですから。

ここでの経験は、他人ながら物凄い貴重な時間だったと思う。シカゴという地方都市とはいえ、三つ星。世界のベストレストラン50にもノミネートされる名店でしす。世界最高峰のレストランのひとつと間違いなくいえるでしょう。

そうした短くとも、ひじょうに濃い経験を経て、帰国。都内の会員制レストランのシェフや代官山の「レクテ」を経て、現在は独立準備として、インプットの総仕上げ中。Twitterで発信しているように、メディアの取材陣が帯同して、食材の旅に出ているそうです。

レストランの構想をチラッと聞きました。食材の98%以上を国産産直にし、1コース20皿以上出すとか。2020年のオリンピックには目もくれず、2021年以降を見据えて独立を目指す。

東京オリンピック・パラリンピックで、劇的に世代交代と、企業の淘汰が起こるだろう。そのドラスティックな変化のなかで、世界中をサバイブしてきたレストランが東京に現れるというのは、なんとも痛快ではないか。


しかし、大野さんにあって驚いた。

僕は、大野さんが以前シェフをしていた某会員制レストランを知りながら、失礼ながらそれが大野さんであるとは気づかなかった。なので、noteは26歳くらいの若い料理人だと思っていた。

さらに、自分の目を通して世界を見るフレームが、とても強固で文才があることから、センシティブで繊細な料理人を勝手にイメージしてました。

しかし、お会いした大野さんは、ひじょうに熱いエネルギーがにじみ出ている人で、パンキッシュな人だった。話すスピードも早く(話すの早い人は頭の回転早い)、発音も明快。フィジカルの強さも感じさせる人でした。

そして、「自分はストレートにものをいってしまうんです」というくらい、自分の意見もきちんと話す。

そんな人が、あのnoteを書くんだから、もうおじさんは、わけがわからない。

noteを書いているときは、その体験の瞬間の自分になってしまうんです」と大野さん。いや、でもさ、3年も経っていれば、未熟な自分や、その後の経験を加味して脚色しちゃうでしょ。それをきちんとコントロールして、3年前の自分であり続けるなんて、できるのかしら。僕にはできない。どうしても、今の自分から3年前の自分になってしまう。

しかし、noteのなかの大野さんは。まだ未熟で見るものすべてが新鮮に映る若い料理人なのだから。

他人になれる能力を持っているのか。

最後に、大野さん自身のターニングポイントはどこですか?と聞いた。

やっぱり答えは「Alineaの経験です」。

ヨーロッパのバックパッカー旅は、Alineaの後。であれば、そこでの経験がベースになることで、自分を客観視して自己の中に記録する方法を手にしていたのかもしれない。

三つ星恐るべし。

そして、大野さんの新しいレストランも楽しみで仕方がない。

料理人付き編集者の活動などにご賛同いただけたら、サポートいただけるとうれしいです!