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稲藁が焼けた香りは、農家の秋の匂い

岩手・遠野にある古民家オーベルジュ「とおの屋 要」の佐々木要太郎さんの著書『遠野キュイジーヌ』(小学館刊)と、米糠を原料に加えた日本酒「権化」シリーズのリリースを記念する食事会の1席に光栄にもお誘いいただいた。

佐々木さんは、岩手県遠野市の米農家で、どぶろく醸造家、発酵料理人でもあります。その3つの肩書をもつなかでも「自分のベースは米農家です」という佐々木さんは、20年かけて田んぼを農薬のない土に戻して、健全で無農薬栽培できるまでに再生しました。さらに遠野一号という忘れられていた米を大事に育て、それを原料に酒を造ります。

せっかく丁寧に育てた米なのだから、できるだけ米を削りたくない。精米歩合95%でほとんど削らない酒造りをしているそうですが、さらに今度は、削った米糠までも使い、米を100%使いきって酒を造ろうとしたのが「権化シリーズ」です。

そしてこの日は、この権化シリーズに合わせた発酵料理も同時に提供され、東京にいながら「とおの屋 要」を少しばかり体験できる貴重な機会でした。

「とおの屋 要」の佐々木要太郎さん
権化 木桶・どぶろく
権化 MARO
権化 PEAT
芋サラ

じゃがいもを再構築させたひと皿。生米と水で乳酸発酵させたそやし水と牛乳を使った自家製パニール、大根・人参・牛蒡の味噌漬けを刻んでパニールと和えたものが入っている。

『遠野キュイジーヌ』p.87
自家製納豆のスフォルマート

子どものころに食べた婆ちゃんの味。納豆・梅肉・生卵・葱を海苔巻きにして食べるのが大好きだった。その納豆の組み合わせを再構築した要のスペシャリテ。

『遠野キュイジーヌ』p.88
豚肉の熟ず茶碗蒸し

卵地には酒粕を使用。豚は無農薬無肥料にて育てた遠野一号を使用して乳酸発酵させた。

『遠野キュイジーヌ』p.93
鹿肉の藁焼き ~ソースペリグー~
(サイタブリアのシェフが考案)
佐々木要太郎さんの著書『遠野キュイジーヌ』(小学館刊)

発酵料理の複雑なうま味は、権化シリーズと非常によくあった。同じような発酵菌が働いているからか、素材を作り、発酵で育て、料理を作り、醸すということを一人の人が見ているからなのだろうか。

デッサンから下絵、彩色という工程を経た、一人の画家の絵を見ているように世界観があった。

藁で燻した米糠を材料に使ったPEATは、どこか秋の田んぼの匂いがします。僕の両親の実家がともに岩手県ということもあって、遠野は、とても親しみのある地。もちろん「とおの屋 要」さんは、もう2、3年前から周りの料理業界の人たちから良い評判を聞いていたこともあり、行ってみたかった場所です。

僕自身のルーツでもある岩手と、憧れの遠野、そのイメージが、畑で藁を焼く秋の匂いを結びつけます。盛岡から二戸へ向かう国道4号線に広がる田園風景が思い浮かぶのです。

摩訶不思議なPEATとMARO

米糠は、米を精白した際に出る果皮、種皮、胚芽などの部分のこと。普通は、これを日本酒造りには使いませんが、佐々木さんは、MAROでは米糠を炒って、PEATでは米糠を藁焼きにしたものを、米と米麹、水(水酛造りなのでそやし水)とともに発酵させ、醪を作ります。しかもその期間は190日。一般的には、20~30日の発酵期間といいますから実に7倍の期間をかけているそうです。

PEATは、燻した藁の香りが野焼きのような風味になって日本酒とは思えない、スモーキーな蒸留酒のような香り。一方、MAROは甘味があり、甘口のV.D.N.(天然酒精強化ワイン)のようなイメージです。しかし、アルコール度は、MAROの方が高く12度、PEATは10度と差があります。

ブドウ糖が発酵することで、メチルアルコールと二酸化炭素に分類されるわけですから、お酒は糖度が高い方がアルコール度が高くなるはずです。ということは、アルコール度が高いMAROの方が、アルコール発酵が未熟なのか、そもそも糖度が高いのか。しかもそれが、米糠を燻すか炒るかの違いで差がでるという。米と米糠の量、発酵の行程も同じということなのに、この違いは摩訶不思議きわまりない。

どちらもアルコール発酵が止まったところで絞るというので、MAROはおそらく糖度圧迫を起こしているのではないかと佐々木さんはおっしゃっていました。

本当に不思議なお酒です。

とにかく、日本酒の醸造技術を使っていますが、味はまったく日本酒ではない。どちらかというと酸味があるのでワインに近い。そんな新しいジャンルの日本酒の誕生でした。

ちなみにこのPEATとMAROは、IMADEYAさんで本とのセットで限定発売中。お酒だけでなく本でそのバックストーリーまで知って飲むことができます。

【5/31まで期間限定特別価格】
米糠を使ったお酒と稲藁まで使用したお酒の飲み比べセット【遠野キュイジーヌ付き】
価格 ¥24,900

小学館の回し者でも、IMADEYAの回し者でもありませんよ。ぜひ、興味があれば上のサイトを覗いてみてください。


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