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Food|飲食店だけが無意味に血を流すのを、僕はもうだまって見ていられない

東京都は、23区と多摩地域で酒を提供する飲食店などに対し、営業時間を朝5時から22時までに短縮することを要請した。期間は、11月28日から12月17日までの20日間。応じた事業者には40万円の協力金を支給するという。

前回は、8月3日から9月15日の45日間。同様に朝5時から22時以降の営業自粛を要請し、協力店に対して8月の29日分20万円、9月の16日分15万円が協力金をして支給されたことを考えると、休業する飲食店への対応はわずかながらだが配慮を感じられる。

一方で、都内全域ではなくエリアを限定することで反動を最小限の要請にしようとしているが、要請の内容は「酒を提供する飲食店の営業は朝5時から22時まで」と変わっていない。

時短要請は本当に効果があったのか?

東京都自体は、飲食店の営業自粛については「8月の時短要請では、感染拡大抑制に大きな効果は認められなかった」ことから、自粛要請には慎重だった。

しかし新型コロナ対策分科会(感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者で構成)では、「医療体制がひっ迫していることを鑑みて」、酒類を販売する飲食店の時短要請とGoToTravelの一時停止し、人の往来を止めるべきと政府に11月20日と25日に提言したことで、東京都は都庁内の慎重論をおさえて、その圧力に屈し時短要請に踏み切ったようにみえる。

これを見ていると「効果もよくわからないけど、飲食店に自粛させておけば、外出自体も減るし、第2波は一応、収まったのだから、今回も同じでよくね?」と、いうようにしか見えない。そもそも、前回から2カ月の間に、政治は何をしていたのかと、怒りすら覚える。

東京新聞の記事によると、第2波は「接待を伴う飲食店」でのクラスター、第3派は「家庭内・院内感染」でのクラスターが多いとしている。

現在(注:第3波)は、家庭内や施設内での感染が増加。今月16日までの1週間で夜の繁華街関連は3%、会食が8%だったのに対し、家庭内が42%。施設内が16%。都幹部は「いま飲食店に時短要請をしても、どこまで効果があるか。科学的裏付けもなく、厳しいお願いはできない」と話す。(記事本文より)

ほかにも、「口コミラボ」のサイトで時短要請後の確認ができた感染者の数に関する、興味深い考察もある。

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(口コミラボの記事より転用)

営業時間短縮による感染抑制の効果があれば、陽性者数は開始から2週間後以降、大きく減少しているはずです。

しかし、前回の営業時間短縮の開始日(8月3日)から2週間後の8月17日以降、陽性者数はほぼ横ばいとなっています。(記事本文より)

この数字だけを見て「効果を判断」することは難しいですが、他にも時短要請だけが抑制する手段ではない報告もある。

家庭内感染も、院内感染も元をたどれば飲食店」という意見もあるかもしれないが、それでは時短をせずに営業していた9月中旬から10月までは急激な増加をしていないことを説明できない。GoToTravel(7月スタート)やEat(10月スタート)についても同様で、実施がクラスター発生の直接的な原因になったとは言いにくい部分があるのではないか。

一般的な会食では、クラスターの発生確率は低い

国立感染症研究所が発表した調査報告も興味深い。

国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)クラスター対策班として35都道府県から、のべ120事例のクラスター発生事例について実地疫学調査を実施している。

その調査報告書のなかで、飲酒がメインではない「一般的な会食」と、飲酒が目的である「飲み会」でのクラスター発生事例を調査している。

一般的な会食」とは、レストラン、喫茶店、定食屋など、飲酒ではなく食事を目的として未成年も含めて入店できる店舗での集会のこととしており、2020年2月25日から10月9日まで、35都道府県からのべ120事例のなかで3事例(2.5%)だった。

報告書の考察では、「FETPが関与した実地疫学調査において、会食における集団感染事例は少なかった」と明確に報告しており、「一般的な会食の場では、客については同店舗に感染者が居合わせることよりも、同席のグループ内に感染者がいることの方が感染するリスクが高いと推測された」とし、一般的なマスクの着用、手指衛生、身体的距離の確保の実施のほか同席のグループ内での身体的距離の確保、飲食中以外、たとえばトイレ移動、会計、注文、食後の会話などのマスクの着用や箸やスプーンなどを共有しないことで「一般的な会食においては、個人、集団での感染伝播の可能性を下げられると考えられた」としている。

つまり、飲酒をメインにしない飲食中心の会食であれば、これまでの感染症対策でクラスターが発生することはほとんどない、ということだ。

「飲み会」のリスクは高い一方で抑制する方法はある

一方、いわゆる「飲み会」についてのクラスターについては6例が紹介されている。ただしこの6例は「具体的な知見等につながる情報が得られた」事例としているため、情報が得られなかった事例が他にあったと見るべきだ。そのためこの6事例だけを見て多いのか少ないのかは判断しない方がいい。

考察では「客-客間の伝播が多く見られ、十分な距離を保てない状況下での飛沫による伝播、発症者が同グループの同席に存在したこと、店内の換気不良および人が密な空間での飲食等によって感染したとみられる事例を認めた」としている一方で、客から従業員への伝播の事例は2例と少ないことから「従業員が一般的な咳エチケット(マスク着用等)や適切な手指衛生を行うことによって、客から従業員へ感染する可能性を下げることが推察された」としている。

さらに、この調査報告書は、次のように締めくくられている。

一般的にいわゆる飲み会ではしばしば宴会や催し等の場合に参加者の増加や開催時間が長くなることによる接触機会の増加が見られる。これらの特性および今回分かったことを通じて、今後の感染対策として、一般的な感染対策であるマスク着用、手指衛生、従業員の健康管理、身体的距離の確保、店内のこまめな換気の実施等に加え、客側と従業員側、両方の立場に対して次のとおり提言することとしたい。


・客間での感染伝播が主であることから、体調不良者、または少しでも異変を感じる場合はイベントや宴会に参加しない
・自らが感染源になるリスクを極力おさえるため、日頃から感染機会(3密)を避け、正しいマスク着用、手指衛生を心掛ける
・回し飲み(通常飲用に用いる容器の共用)を行わない
・不要な従業員や別グループへの接触を避ける

従業員
・客同士が密集しないような店内レイアウト・座席配置の工夫(特に宴会・イベント時)
・席移動の制限

これを見ると、東京都が提唱している会食時の「5つの小」は、「小人数」「小一時間」「小声」「小皿」「小まめに換気や消毒」は、この報告をベースにしていることがわかる。

8月と9月の自粛要請で何がわかったのか

以前、「『真理へと至る対話』が置き去りにされている」というnoteを書いたことがある。

真理へと至る対話」とは、2009年に新型インフルエンザのサーズが流行した際に刊行された『インフルエンザ21世紀』(瀬名秀明著、文春新書、2009年)のなかで、京都大学の矢守克也さん、慶應義塾大学の吉川肇子さんたちが開発した「クロスロード」とうゲーミング技法のひとつとして紹介されたもの。

真理へと至る対話」、つまり科学的に実証された真理をベースにした議論が行われたうえで、社会のルールを作っていく「合意へと至る対話」が生まれ、そうしてようやく「終わらない対話」として個々の価値観が自立できる世界が生まれるとしている。

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今回の営業時間短縮要請は、「真理へと至る対話」がまったく行われていないまま、「とにかく酒を提供する飲食店は、まとめて22時で閉店」という「合意へと至る対話」がなされ、さらに「こんな時期に飲食店に行くなんて!」「医療従事者のことを考えろ!」という終わりのない対話が繰り返されている。

これでは建設的で継続的な対話が生まれないはずだ。

実際、11月12日には新型コロナウイルス感染症対策分科会は、「“対話ある情報発信”の実現に向けた分科会から政府への提言」で次のように提言している。

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これを見ると、分科会としては、国民の行動変容を促すよう情報発信の強化を再三の政府への要請をしてきたいも関わらず、いっこうに具体的な政策を行わない政府に対して、しびれをきらした形で、11月20日と25日の「時短要請」を提言したという経緯が見えてくる。

先の国立感染症研究所が発表した調査報告によるように、ここまで飲食店におけるクラスターの発生するシチュエーションがわかっているのであれば、前例に倣えの一括した「22時以降営業するな」という自粛要請だけが方法だったのだろうか。

店の滞在時間を1時間30分まで、飲食店を問わず小売店での酒の提供は22時まで、または22時以降は身分証明書を提示などの条例を作ることもできるのではないだろうか。さらに、店側には人数分に取り分けることの徹底、予約は4名までというような、ポイントを絞った要請をすることもできたはずだ。

飲食店を愛するものとして「飲食店だけが目の敵にされる」のはもう見ていられない。前回同様に営業をやめさせれば、民衆も危機感を持って生活するだろうと、飲食店が「見せしめ」や「生贄」として使われるのはもたくさんだ。

もちろん、医療現場のひっ迫、医療従事者の負担を考えれば、重症者数が増えている事態は危機的ではあるし、いまだエンタメ業界などのようにイベントができず苦しんでいる分野もあるだろう。

くれぐれも誤解をしてもらいたくないのだが、僕はそういった方々に負担を押し付けようと言っているわけではない。

2カ月も経って、分科会の提言に具体的な政策を示さず、さまざまな選択肢があるなかで判断を先延ばしにし、選択肢が「飲食店の営業自粛」のみという切羽詰まった状況になって初めて当たり前のように自粛を迫ってくる国の無能さに、僕は怒りを覚えているだけだ。

緊急事態宣言、第2波における自粛要請を受け入れて、血を流した飲食業界に、国はどの口さげて「また前回通りお願いね」というのか。過去2回の自粛要請の効果すら検証されていないのに。

飲食店だけが無意味に血を流すのを、僕はもうだまって見ていられない。

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