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Food|続・フィンガーフードは、最高に濃密なシェフとの対話の時間

1カ月ほど前にレストランのフィンガーフードについて書きました。

毎朝7時からClubehouseで、自分がこれまで書いたnoteについて書いていて、そこでフィンガーフードについて話したところ、「シェフとの対話」のものであることとともに、この先のコース料理でミスマッチを防ぐための「チューニングタイム」であるように思ったので、そのあたりを追加で書いてみようかと思います。

食材への視点をチューニングする

フィンガーフードは、コースの最初に出てくる2~3品の料理のことで、主食材とソース、付け合わせから成る料理では、一口のバランスが人それぞれ違うのに対し、一口で食べられる分、味の伝わり方のバラつきが少ない料理です。シェフの味覚や香りのデザイン力がダイレクトにのってくるため、よりシェフの意図が伝わりやすい料理といえます。

そのため、最初のフィンガーフードを食べると、シェフが何を大切にしているのことが大づかみすることもできます。「食材への視点」のチューニングです。

たとえば、新潟・三条「UOZEN」のフィンガーフードからは、少ない食材でかつ主食材をしっかり前面に押し出すことで「何を食べて欲しいのか」というのが明確にわかるような料理を大切にしていることが伝わってきます。

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1品めは、甘長とうがらし。2品めは、タマネギのマカロン。3品めはイノシシのリエット。どれもメッセージがしっかりしています。味の方も、しっかりと強い味付けで塩もびしっと決まっています。

そういったお料理の場合は、この先、メニューに記載されている主食材に注意して食べていくことで、シェフがその主食材のどこに感銘を受けたかそれは味なのか、食感なのか、香りなのか、その主食材の魅力をどこに見ているのをシェフと共有していくような食べ方をしていくと、よりコースが楽しめると思います。

実際に、UOZENのこのあとのコースでは、鮎のシベや熊鍋が出てきます。最初のフィンガーフードによって食材の意外な個性を引き出すかをシェフは楽しんでいることを感じていたので、この苦味もシェフからのメッセージだととらえることができます。

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熊鍋は、脂身が多い熊肉のスライスを見ると、熊の脂を食べて欲しいという声が聞こえてくるようです。

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味や食感のバランス、強弱に対するチューニング

話題のレストラン「sio」の最初のフィンガーフードは、店のシグニチャーディッシュにもなっている「馬肉 ビーツ クミン」からは、UOZENとは違ったメッセージを受け取ることができます。

馬肉の臭みはないし、雑味がなくクリアな肉質なので素材としておいしいのですが、どちらかというと、食材の良さよりも、食材の組み合わせの妙、味のバランスに重きを置いていることがわかります。味や食感のバランス、強弱に対するチューニングです。

さらに、3つの素材をささえる下の生地(食パンを薄くのばして焼いたもの)は馬肉の食感とは明確にテンションの違うテクスチャーで、そのメリハリこそsioの真骨頂であったりします。

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味や食感の明確なコントラスト」「五味のバランス」といったところのテーマがこのフィンガーフードには隠れているので、その先の料理も、強めの酸味だったり、塩味だったりとする部分をsioの個性と捉えられたり、パリパリとかモッチリというような部分に注意しながら食べていきます。

そうすると料理の随所にいろいろな仕掛けが施されていることに気付くようになるので、料理を通してまるでシェフと対話しているような気持になります。

たとえば、3月に食べたコースのなかに「椎茸のマルタリアータ」がありました。蛤出汁とバターのソースに原木椎茸のスライスと平打ちのパスタのマリタリアータを和えたもの。椎茸とマリタリアータがどちらもデロンとどこかだらしのない食感をしていて、キュートに感じられたのも、最初のフィンガーフードで食感にチューニングを合わせていたおかげのような気がします。

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この料理を食べて「シイタケはもっとおいしいものがある」とか、「うま味を重ねて塩をしかり利かせればなんでもおいしくなる」というような否定的なことを言うのは、まるっきりチューニングがあっていないということです。

わざわざ合わせる必要ない、それを乗り越えてうまいものを作れ」という意見もあると思うのですが、僕は、それではシェフとの対話がまったく生まれないので、あまり楽しくはないな、と思うのです。

鰆のカルパッチョは、酸味と塩味がしっかりしていて、食べようによってはバランスが悪いと感じてしまうかもしれないけど、このあたりは明確な味わいのコントラストがsioらしいと捉えられるのもチューニングのおかげかなと思います。

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ストーリーへの導入としてのチューニング

もう1つのパターンとしては、コンセプチャルなコース料理の導入に対するチューニングの役割です。

コンセプチャルなコースを食べるうえで難しいのが、食べる側の心の準備です。これによって、コースへの解釈がかなり変わってきます。

それは、お店にくるまでの道のりによっても違いますでしょうし、ギリギリになってテーブル着くか、それとも15分前からお店の雰囲気のなかにいるかということでも違ってくるかと思います。

そういう意味で、効果的だなと感じたのが、銀座FAROの展開型の重箱から出てくるフィンガーフードです。

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この写真では、黒い箱が開いた状態になっていますが、もともとは四角い箱型になっていて、4つのフィンガーフードが収まった状態で運ばれてきます。

その箱が一つひとつ展開されていくのを見ているので、必然と料理に対して集中が生まれます。そして一つひとつの料理の説明も耳に入ってくるので、ひとつのテーブルの全員が料理に集中する時間が生まれるので、コンセプチャルな料理を出すお店にとっては、物語のスタートの合図にもなり効果的です。

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この日のFAROは、高野山の精進料理とヴィーガンというテーマだったので、より効果的で、コース全体を注意力高く食べることができました。

店名のコンセプトへのチューニング

外苑前にあるフレンチレストラン「L'EAU (ロー)」のフィンガーフードは、海と山、里を一つにまとめた模型のような器に、自然の一部のように作られた料理が配置されていて、さながらミニチュアアートのような料理です。

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生命の源である水を意味する「eau」というフランス語から付けられた店名に象徴されるように、山から里、里から海、さらに海から山へと生命が巡pり続ける世界が、小さな器の上に展開されています。

この最初のひと皿から、このレストランが自然の循環や、原初的な生命の輝き、プリミティブさのようなものを大切にしていることが感じられます。

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また、「自然と見分けのつかない料理」という視点は、作為的だったり工業的な食材よりも、できるだけサステナブルな食材や環境を大切にしながら料理をしたいというシェフからのメッセージが込められているように感じると思います。

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こうしたレストランですと、やはり食材に注目をしながら食べていくと、その料理の理解度があがると思います。食べることによってどんな影響が生まれるのかというのを思いめぐらせながら料理に向き合うことで、味わいや風味のなかにも、産地の風景であったり、シェフが五感で感じたものが込められているように感じてくるはずです。

積極的にシェフの料理の中にある声に耳を傾ける

フィンガーフードはコースの入り口であり、物語のプロローグになります。そこには、これから始まるストーリーの案内になるキーワードがちりばめられています。

それらをきちんと拾い集めてから物語をすすむことが、フィンガーフードを食べることで行う「チューニングタイム」だと思います。

もしこの「チューニングタイム」できちんと調音ができていないと、シェフが伝えたいコースの内容をまったく感じ取ることができず、「なんかよくわからない」「思っていたのと違った」というようなミスマッチも起きてしまうこともあります。チューニングがずれて食べ続けるのは、不協和音がどんどんと増えていくなかで食べているようなもので、とてももったいないと思います。

それなら、きちんと調音してから食べ進めるた方がいい。

食べ進めていくときっと、三度、五度の音がきれいに重なって和音を奏でるよな、シェフとあなたとのアンサンブルが始まるはずです。

料理をただ一方的に受け取るだけではなく、積極的にシェフの料理の中にある声に耳を傾けることで、音を合わせにいくことをすると、よりその日の料理の楽しさが何層にも膨れ上がっていくはずです。

そのためにも、最初のフィンガーフードを丁寧に食べてシェフの声に合わせたチューニングをしてみてはいかがでしょうか。

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明日は「Work」。「伝えること」と「聞くこと」、そして余白について。

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