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Art|美術展、ウィズコロナ/アフターコロナの厳しさ

会期終了間際の「桃山―天下人の100年」展を観に、東京国立博物館に行ってきました(現在、会期終了)。

桃山」展は、時空旅人別冊で編集・執筆で紹介していたこともあるので、絶対いかないといけません。

ウィズコロナ/アフターコロナの美術展

10月6日から始まり、11月29日に終わった「桃山」展は、今後の美術展の姿を模索する展覧会でもありました。

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以前との大きな変化は、入館料の値上げ。通常千円台な特別展が、感覚としては1000円の値上げですので、「お、高いな」と僕も思います。実際、今回の展覧会に家人を誘ったものの「高いからいかない」という反応でした。

東京国立博物館では最高値の展覧会。新型コロナウイルスの感染対策のため、入場者を制限しなければならないことや、そもそも外出控えの人も多くなり見込みより入場者数が減ること、感染対策で人件費の増加などがそのまま入場料に反映されているそうです。

もちろん、他の美術展と同様に日時指定の予約が必要なことは変わりません。

じっさい、会期終了前日の土曜という、もっとも混雑する日に行ったにもかかわらず、前売り券の販売終了などなく、どの時間帯も余裕をもって観に行けるような状況で、はっきりいって「売れ残っている」という印象でした。

実際に行ってみてわかったこと

桃山」展の展示は、構成が綿密でとてもすばらしいものでした。

構成のすばらしさ」をもう少し詳しくいうと、美術史における桃山期が前後の室町、江戸の美術区分とどう違うのかが、大きさや展示方法などを駆使して体感できたことです。

桃山はバブル期。それまでの調和のとれた室町幕府の権力を破壊した期間だったが、江戸幕府は調和に戻すことで太平の世を目指した」という視点が、この展覧会には通底していて、前半と後半に、室町と江戸という時代として離れていながら、似たようなやまと絵(平安時代の貴族風の様式)をあえて展示することで、伏線を回収しています。

豪奢、堅牢な桃山美術の特徴を全体として紹介しながらも、最後から2番目の章に甲冑や刀などをまとめ、関ヶ原の戦いの屏風を展示して天下分け目の決戦を意識させたのち、最終章では、動乱や混とんの時代をへて静謐な世界にたどり着いた狩野山楽の《松鷹図襖・壁貼付》(重要文化財)を印象的に配置することで、血なまぐさい戦が終わったあとの静けさを連想させるような演出をしています。

さらに展示のなかでは、誰もが歴史の教科書で見たことのあるような狩野永徳の《唐獅子図屛風》や長谷川等伯の《松林図屏風》(国宝)など、国宝・重要文化財に指定された名品が目白押しで、正直、「こんなにすごい展覧会なのでに、会期終了間際でこれしか人が入っていないなんて、なぜ?」と思ってしまいました。

本当に展示が良かっただけに、残念としか言いようがありません。

「値上がりなら行かない」はファンだったのか

この場面を見て、コロナ以前は、オリンピックによって民族意識の高揚もあって「日本美術ブーム」もあったと思うのですが、コロナになって値上げ、事前予約というハードルが上ったときに、来場者が減るということから、やっぱり「それほど好きじゃなかった人」からは、切られるものだったと感じずにはいられません。

それ自体は当たりまえのことで、僕は美術が好きだから値段が上がってもいきますが(たぶん、桃山展は3000円でも行ったと思う)、別の面でいえば、洋服は買わなくなったし、映画も演劇も、エンタメ関係も、誘われたら行く程度のものは、行かなくなりました。

コロナによって仕分けられた」そんな感があるなかで、どうやって美術展は人を集めて、採算をとっていくのかは、とても難しい問題に直面しているように思います。

以前、コロナ後に行った展覧会に行ったときに、美術展の向き合いかたが変わったということを書きました。

そのため展覧会に行く回数が減ってしまうのですが、行くとなると「楽しみにする時間」がぐっと増えて、「よししっかり観てやろう」という気になります(もちろん以前からしっかり観てやろうとは思っているのですが)。

展覧会前後の時間の演出にも気を配るようになりました。Gotoイートもやっているので、食事するところも予約するようになりましたし、そこでもまた楽しみが増えたように思います。

気軽に行くものだったから、1日を使って楽しむものへ。ウィズコロナの美術展は、純度が高くなっているように思いました。

美術展に行くということが、前後の予定を含めた休日の楽しみ方の提案までできないと、「ちょっと好き」という人を取り込めないんじゃないかというのは、今回も行ってみて強く感じました。

ウィズコロナ/アフターコロナですべての関わり方に選抜が行われてしまったあとで、もう一度人を呼ぶということは、今まで以上に強い意志を関わる人に生む必要があるわけで、その課題は、どんな分野にも(もちろん飲食にも)共通することなんだと思います。

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明日はFood。伊勢でのポップアップレストランのことを。

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