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Human|料理家で作家の樋口直哉さん

月に1度、調理器具メーカーの貝印さんが運営する料理研究家さん向けの会員サイト「KaiHouse」でインタビュー記事を担当しています。

10月は、noteや雑誌などで、調理法だけでなくその背後の歴史や文化も解説する樋口直哉さんでした。樋口さんは、料理家だけでなく、2005年に小説『さよなら アメリカ』で第48回群像新人文学賞を受賞した作家でもあります。

編集者の仕事の中でインタビューが一番好きなので、いくらでも話を聞いてしまうのですが、2時間とか聞いちゃうと後からまとめるのが大変なので、1時間くらいにまとめるように努力しています。

そうとはわかっているんですが、ついつい長くなっちゃうことがあるんですよね(それもけっこう頻繁に笑)。

樋口さんのインタビューもまさにそうで、あれも聞きたい、このことどう考えているんだろうってついつい話が続いて、2時間オーバー(まだ足りないくらい)になってしまいました。

会話が刺激的過ぎたので、その熱のままnoteを走り書きもしたりもして。

そんなインタビューをした少し後に、別の企画で料理家の方と今度は料理業界について話す機会がありました。

この料理家の方、というのが何を隠そう(隠してないですが)樋口さんでした笑。科学的な思考というのは、ちょうど考えていたことだったので、いろいろ繋がって楽しかったなぁ。

インタビュー記事で書ききれなかったこと

スペースの都合で書けなかったことの一つに、樋口さんは自分を「構造主義者」だと話していたことです。

僕は、構造が好きなんです。構造主義者なんです。レヴィ=ストロースがいうところの構造主義というのは、人間の内部が作ったんじゃなくて、人間の外部が人間を作ったという考え方。つまり、人間の進化は、人間が進化したのではなく、外部が進化したんです。それがものごとのすべてに共通していて。

だから、自分に問題を求めるより、外に問題を求めた方がいい。たとえば、お客さんが入らないというのを自分に求めるのではなく、お客さんに求めるんです。違うお客さんなら支持されるかもしないですから。その方が効果がある。

自分のスキルをアップするのは難しいけど、外の状況を変えた方が絶対にいいんです。

多くの成功者が「好きなことをやりなさい」とよくいうのですが、それだけではやっぱりだめで、前提として「好きなことを受け止めてくれる場所が必ずあるので、それを見つける」という作業も同時に必要なとなのだと思います。その上で好きなことをやるのです。

また、樋口さんは「料理家」と名乗ることが多いといいますが、いわゆる世間一般の料理研究家や料理家とは少し違っているともいいます。

料理研究家は、時代状況とか、時代背景とか社会情勢に応じて、適したレシピを提案するのが仕事です。その時代に応じてレシピを出して、生活を助けていく。

だけど僕はそういうことをやりたいわけではなくて、むしろその時代の料理には、それが生まれる時代背景や料理を研究したい。時代がかわっても火の入れ方の方法はまったくかわっていない。原理原則は動かない。その原理原則を更新していきたいと思っているんです。

実際、料理はだいたいそうやって進化してきた。新しいレシピが料理を変えるのではなくて、料理の原理原則を見直していくのが料理には重要だと思っているので、そっちをやりたい。

この話が本文にも書いた「原理原則」につながっていきます。そして、料理における科学的思考についてもこんな話がありました。

科学は世の中全体を説明するもの。よく科学的な料理と書かれますが、あれは間違いで、世の中の森羅万象を解き明かすのは科学なのだから、料理はすでに科学なのです。もちろん、料理のなかにも現代の科学では測れないものもありますが、それすらも科学かもしれない。僕らの「人を好きになる気持ち」すらも数式で表現できるかもしれないわけです。

つまり、科学は共通言語なので、それがないと話にならない。人間は感情をもつ生き物なので、科学で導き出しても、その方法が必ずしも正しいやり方ではないこともあります。だけど、それはそれでいいのです。

その点では、フランス料理は共通言語がしっかりしていますよね。どこにいっても通じる。それは、評価軸を「おいしさ」においていないからなんですよね。ミシュランの評価も同じで、評価は定義においている。そしてその定義を更新し続ける人がいちばん評価される。定義を更新していないと星がはく奪される。定義を作ったひとは、いつまでも三ツ星。おいしいだろうが、おいしくなかろうが、三ツ星なんです。

科学的な料理については、僕のnoteにも書きましたが、樋口さんはこんなことを話してくれました。とても面白い。

これからも樋口さんには、定期的にお話を聞いてみたいなぁ、と思っています。

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明日は「Work」です。

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