Life|「真理へと至る対話」が置き去りにされている

先日、あるインタビューで、データサイエンスを専門にする大学教授にインタビューをする機会がありました。「アフターコロナ・ウィズコロナの世界で、AIやIoTがどんな役割を担っていくのか」というテーマのなかで、議論や対話をするうえで大切な「共有されるべき真理」について考えさせれられたのです。

真理とはサイエンスによって立証される

そのなかで、新型インフルエンザのパンデミックに社会が対応していくには「真理へと至る対話」から「合意へと至る対話」、「終わらない対話」へと、3つのフェーズを経た対話を積み重ねていく必要があるという話になりました。

対話

この3つのフェーズについては、2009年の新型インフルエンザが世界的に流行した時に刊行された『インフルエンザ21世紀』(瀬名秀明著、文春新書、2009年)のなかで、京都大学の矢守克也さん、慶應義塾大学の吉川肇子さんたちが開発した「クロスロード」とうゲーミング技法のひとつとして紹介されたものです。

インタビューのなかでは、今回の新型コロナウイルス感染症による社会の分断は、「真理へと至る対話」がなされないまま、本来は対話によって深められていくはずの「終わりのない対話」がだけ起ってしまい、上の図にあるような対話が積み重なって昇華していくような図式にならず、ただ攻撃しあっているだけだ、という話になりました。

もう少し具体的なことを話すと、「真理へと至る対話」とは、サイエンスやデータが対話の手法のひとつになり、これが圧倒的になされていないといいます。

確かに、新規感染者(統計的には、新規陽性判明者数ですが)だけを報道することや、圧倒的な感染状況のデータ収集不足などをインタビューした先生は指摘されていました。その教授の言葉を引用するなら「真理とはサイエンスによって立証されるが、その真理が必ずしも正しいことであるとは限らない」でしょうか。真理へと至ったうえで、さらに対話を繰り返す必要があるのです。

ちなみに、「合意へと至る対話」は、コロナ禍では政治が担うといいます。たとえば持続化給付金をいくら払うか、東京オリンピックを延期するか、営業自粛要請や緊急事態宣言を発令するかなどに向けた対話です。もちろんこれは、「真理へと至る対話」が行われた上でなされるものです。

そしてここでようやく「終わりのない対話」のフェーズに迎えます。これは、たとえば命の選別をするような医療をどう考えるかというようなテーマになってきます。

料理業界にも必要な「真理へと至る対話」が必要

そんなインタビューをした少し後に、別の企画で料理家の方と今度は料理業界について話す機会がありました。

そのなかで、その料理家さんは「料理は科学っていうけど、世の中森羅万象は科学なんだから、そもそもおかしいですよね」という話が出たんですね。そのときはっと、前述の「真理へと至る対話」のことを思い出したわけです。

僕自身、料理のことを話すときに、おいしいかどうかとか、クリエイティブであるかどうか、といった「終わりなき対話」ばかりで無駄な対話ばかりをしていなかっただろうか。

調理技術の科学的・データ的な立証、つまり「真理へと至る対話」をせぬまま、料理のジャンルの話や、伝統料理の話、売れてるとかコスパの話といった「合意へと至る対話」をしていたんじゃないだろうか。

僕自身、サイエンスやデータは真実をあらわにする(それが正しいかどうかは別として)ものであるとわかっていたし、料理業界もサイエンスやデータによって見直されるべきだと思っていたのですが、なぜそれが必要なのかを構造的に理解しておらず、舌の根が乾かないうちに「終わりのない対話」ばかりをしていたように思います。

段階をふまずにただ繰り返される「終わりのない対話」は、対立を生むだけで、建設的な議論は生まれません。

僕たちはまず「真理へと至る対話」を重ねることが、すべてのベースになる。それは、サイエンスやデータ以外にも、歴史的事実の認識というのもあるのではないかと僕は思っています。

本当に有意義で、次世代の、そして新しくて楽しい料理とは何かということを考えるためにも、「真理へと至る対話」を重ねることが料理業界に今必要なことなのかもしれなません。

あなたも「終わりのない対話」だけをし続けていませんか?

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余談なのですが、この対話の3つのフェーズは、コミュニケーションに問題をかかえている分野でも応用できるんじゃないかと思っています。

たとえば、飲食店などのチーム内の意思疎通や目的意識の共有・向上といった点でも、ただしく店の状況をデータで見える化しながら現状について対話して(真理へと至る対話)、それに対する改善方法を目的意識を一致させて実行する(合意へと至る対話)。そして最後に、このお店をどうしていきたいか、とかお客さまが求めるものとは、といった対話(終わりのない対話)を重ねていくわけです。

真理へと至る対話」から「合意へと至る対話」、「終わらない対話」へ。この3つのフェーズを意識してみると、より建設的な対話を心がけてみてはいかがでしょうか?

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明日は「Art」。先週の印象派のお話が好評だったので、「印象派の展示方法」について、もう少し書いてみます。

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