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Food|2年半ぶりの乃木坂しんで、料理を通じて語りあえた瞬間

東京・乃木坂にある一つ星の日本料理店「乃木坂しん」の店主、石田伸二さんと支配人の飛田泰秀さんとは、2016年のオープン当初からお付き合いがあり、料理専門誌『料理王国』時代には、福井県のタイアップ取材にもご協力をいただいて福井県内の各所をいっしょに旅したりしました。

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じつは雑誌の特集では、師弟関係が強く技術を師匠から学ぼうとする日本料理と中国料理よりも、啓蒙思想が強いヨーロッパの料理(フレンチやイタリアン)の方が販売部数が伸びる傾向があって、前職では日本料理のお店を取材をする機会が少なく、交流がある料理人の方が少なかったりします。

しかし、そんな中でも乃木坂しんの石田さんと飛田さんとは気が合って、取材以外でもお会いしたりするようになったのは、日本料理にある師弟関係を大事にしながらも、異なるジャンルの価値に積極的に触れているため、柔軟な考え方をされているからのような気がしています。

和洋折衷、和食とワインの日本料理店「乃木坂しん」

石田さんと飛田さんが出会ったのは、銀座で当時三つ星だった日本料理店「小十」だったそうです。徳島県生まれの石田さんは、地元出身の超有名日本料理店で、僕の前職の雑誌の創刊の発起人でもある料理人さんの店で腕を磨いた、バリバリの日本料理人です。

一方の飛田さんは、「料理の鉄人」で知られる坂井宏行さんの「ラ・ロシェル」などフランス料理店で経験を積んできた洋食出身のサービス人です。

その二人が、「奥田」がパリに開いた系列の和食店「OKUDA」で出会い共に店を出そうと夢を語り合ったことが乃木坂しんが生まれるきっかけです。

厳格な師弟関係のなかでも、外に開かれた料理観をパリで体験してきた二人だからこそできる抑制と解放のほどよいバランス乃木坂しんの魅力だと思っています。その乃木坂しんに久しぶりに行く機会を得ました。

緩やかな日本料理の世界に奥行きを

前回、お店を訪れたのは2018年4月でした。

僕が料理王国を離れるときに福井のチームで集まってもらったのが2019年の8月で、さらにその後も連絡をたまに取り合っていたので1年ぶりくらいからと思っていたら、お料理をいただくのはなんと2年半ぶりということで「そんなに前なのか?」と驚いてしまいました。

春の献立だった前回から、秋も深まった11月の献立へ。いい季節です。

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ハモとウニ。ウニの下に飯(いい)が隠れています。あんかけがほっこり温かい、ホッとする一皿でスタート。

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もちろん、香りが弾けるシャンパーニュを飛田さんは合わせます。

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クエ、アオリイカ、イクラ。千切りは松茸です。クエの下にはキクナのおひたしがまたも隠れています。

酢と醤油を1対1で合わせた二杯酢のやわらかい酸味が心地よく、クエの繊細な旨みを引き出されています。

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ペアリングはドイツのリースニング。

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柿とベニズワイガニの白和え。石田さんの白和えは、酸の使い方と飛田さんのワインのチョイスが大好きなんです。

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この日は、酸を抑えた白和に、アルザスのピノグリを合わせていました。

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お餅をまとった栗と香茸のお椀。石田さん曰く「栗きんとんのお椀」とのこと。栗のホクホクとした食感と甘味が、餅のフワモチでほっこりとした味わいと良くあっていて、お出汁なんだけど、懐かしくて優しい家庭的。香茸も、文字通り香り高く芳醇、秋を感じさせます。

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お酒は、奈良県吉野町の美吉野醸造の「花巴 樽丸」。吉野杉の樽で2年熟成させた、まるでシェリー酒のような日本酒。お出汁の旨味ではなく素材がもつ森の香りに合わせていくようなイメージです。

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魚を捌くのが好き」という石田さんのタイのお造り。タイの骨でとった出汁を生姜と醤油で合わせた出汁をたっぷりつけていただきます。一見、しょっぱそうに見えますが、お出汁として飲めるほどで、タイに対する絶妙な調味料になっています。

お刺身に醤油もいいのですが、お客様ごとに醤油をつける量が違って意図したおいしさが伝わらないのと、醤油にワインをペアリングさせるのが難しいこともあって、醤油をつけずに軽い漬けのように出しているそうです。

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カルフォルニアのドンキー・アンド・ゴート・ワイナリーの「オールド・ヴィン・カリニャン」の2013年。カリニャンは、スペイン由来の品種だそうです。

スペインの品種は好きなものが多くて、このワインもその一つ。「魚に赤ワイン?」と思ったけど、お出汁の旨味を口にすることに程よく切ってくれて、何度でもタイをおいしく食べられました。

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いよいよ八寸で。落ち葉が積み重なった世界を分け入っていくと、山海の幸に出会います。

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カマスと松茸のフライ、生ピーナッツ、田楽小芋、黒無花果、ホオズキ、台座にのっているのがピータンとユリネを醤油と一味で味つけたもので、かなりインパクトがある料理です。石田さんの料理は、洗練と調和というイメージだったのですが、このピータンでちょっとイメージが変わりました。「おいしいでしょ?」と、調和にノイズを与えるような意外性を楽しむ石田さんの姿が印象的でした。

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ギリシャの「テトラミソス」というワイナリーの「レッツィーナ」(白)。ギリシャのワインと日本の秋を合わせるなんて、どこに共通点を見出しているのか。興味が尽きません笑。

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食事前の肉料理が出てくるのも乃木坂しんの特徴。この日はカタサンカクのローストビーフを。餡にしてとろみをつけた赤ワインソースでいただきます。

肉の下には、福井に一緒に食材を見に行ったあわら市のサツマイモで、低温熟成で糖度を高めた「富津金時」のピュレがしいてあります。産地を見に行ったものが3年経っても使われているのは、やっぱり嬉しいですね。

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ワインは、ニュージーランド「エッチ・コート」の「ビトウィーン・ファイヴ・ベルズ」。ネロ・ダーヴォラ、ネグロ・アマーロ、ピノ・グリの皮などをブレンドしたナチュールワイン。王道、新風関係ない飛田さんのセレクトは本当に楽しい。

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鍋はスッポンとキノコと湯葉。おいしいに決まってます。

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ワインはニュイ・サン・ジョルジュ村のプルミエ・クリュの2013年で「ショーヴネ・ショパン」の「オーザルジラ」。

いよいよ楽しみなご飯です。

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石田さん、自ら。

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アナゴと鶏そぼろ、銀杏のまぜご飯。まぜご飯って、なんだか特別ですよね。フワフワのアナゴを下支えするのが、鶏のそぼろなんです。これが悪魔的な旨味を与えていて、誰が食べてもおいしい味になっています。

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デザートは、唐津の藤ノ木陽太郎さんの器で。

丹波の清水さんはまた違う器です!さんの器ででてきます。

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栗のぜんざいです。お椀のしっとりと甘い栗とはまたイメージが違う、もっと朴訥な栗、ボソボソとしながら風味がしっかりある一面をアイスクリームと蜜の力を借りながら表現されています。

洋食では、同じ食材がコースに出てくるのはタブーなのですが、この日も松茸や栗は季節の食材ということでイメージを変えて出てきたのは、季節を楽しむと言う点では効果的なような気がします。

言葉よりも料理の方がわかり合える

石田の料理、だいぶ変わりましたよ」と、食べる前から飛田さんに言われていました。食べてみて、僕もそれは強く感じて、石田さんの自信を持って自己表現しているような気がしました。

たとえば、カマスと松茸のフライやピータンとユリネの和もの、まぜご飯の鶏そぼろなど、強い旨味と油脂分のある料理を、他の食材や料理とのコントラストをつける効果があって、対する食材(松茸の香りに、ユリネの旨味、アナゴの軽い甘味と食感)の輪郭が強くあらわれているように感じました。

淡く、すぅっと抜けていくような日本料理の伝統に忠実な印象を、石田さんの料理にはあると思っていたのですが、そこはこれまで通りベースにしながら、強い料理を要所に入れることで、奥行きを加えているように思えるんです。

料理店は日々変わっていくものであることを改めて実感するわけですが、さらにその中で、毎年ミシュランの一つ星を獲り続けているというのは、やっぱりすごいことだなぁと思います。

また、タイの出汁漬けなどは、じつは2年前にも食べているのですが、その時は今回ほど強い印象を持ってはいませんでした。それは、自分自身の味覚や感じ方の変化ではないかと思っていて、そういった2年間の自分自身の変化にも気づかせてもらえるのも、飲食店と長く付き合う醍醐味なのだな、と実感させました。

石田さんと飛田さんとお会いするのは1年ぶり以上、乃木坂しんで料理をいただくのは2年ぶり以上だったのですが、その間の挑戦と進化の跡が料理の中に見えてきて、もちろんコースの間にいろいろと話したのですが、言葉以上に「変わっていくことを恐れない意志」を感じることができて、料理編集者として、友人として、とても感銘を受けた夜でした。

僕自身の変化も、お客として感じてもらえたかなぁ。

好きになった飲食店に通い続ける楽しさ、ぜひ多くの人にも体験してもらえたらうれしいです。

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明日からは、伊勢の滞在日記を公開していきます!



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