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Art|絵を観るときに必要な「時代の目」

noteでは食関連のことを多く書いていることもあって、食専門の編集者のように思われがちなのですが、食の編集者になってまだ8年ほどで、それ以前は歴史や美術、スポーツの雑誌の編集をしていました。

とくに美術の編集は、2008年に講談社から80巻シリーズで発売された『最新保存版 世界の美術館』の時からはじめてて、「料理王国」時代も並行して美術書籍の編集をしていたこともあって、食とともに興味がある分野です。

西洋絵画至上主義のフェーズは過ぎた

とは言っても、美術雑誌や書籍一本でやってこられた編集の方に比べたら圧倒的に知識や現在の動向には疎いこともあって、自分なりの視点を探さないといけないな、と思って数年模索しておりました。

そんななかで「これは、おもしろいテーマだな」と思えているのは、作品がどんな状況に飾られたのかということです。

日本の美術鑑賞においては、ながらく「作者」「絵の内容」「美術史における位置づけ」による鑑賞法が推奨されてきました。つまり「なぜこの絵は素晴らしいのか」を理解することが、美術鑑賞の第一義でした。

それは、まったく欧米に追い付き追い越せの価値観で西洋美術を受容しようとしてきた歴史を考えれば、「西洋美術のすごさ」を理解するためにも重要だったとは思います。

しかし、現代では西高東低のような文化意識を変えて、グローバルに多様な価値を受容することの方が大切になってきていることもあり「自分たちとどう違うのか」ということを理解する方が、より大切なことのように感じています。

つまり美術鑑賞も「西洋美術のすごさ」ではなく、西洋美術がどうして特異に映るのかということに目を向けた方がいいのではないかということです。

この絵があった場所を知っていますか?

そういった意味で「作品がどんな状況に飾られたのか」ということは、僕のなかでは西洋や東洋を問わずに共通する作品制作のきっかけになるもので、作品を置く場所との関係、さらにはその作品の制作を依頼した者に意図や願いを断ち切って制作をすることはかなり難しいと思うのです。

もちろん命を削って鍛錬することで生まれる芸術はあると思うのですが、それ以上に、どのようなストーリーのなかでその作品が生まれてきたのかを知ることは、作品に新しい光を当てるきっかけになるのではないかと思っています。

そのため、現在執筆や編集をする美術関係の仕事やこのnoteでのArtのマガジンの記事は、「だれがどんな意図で制作依頼をしたのか」について書くようにしています。

レオナルド・ダ・ヴィンチの有名な《最後の晩餐》は、修道院の食堂に飾るためのものであったり、ティツィアーノのヌード画《ウルビーノのヴィーナス》も新婚夫婦の性教育のために寝室に飾られたといわれています。

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フェルメールの《牛乳を注ぐ女》は、パン屋に払えなかったフェルメール家の借金の引き換えにそのパン屋に渡したものだという説もあります。

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絵の表面だけをみて、きれいとか、この構図がとか、技法がということももちろん大事だと思うのですが、そういった革新性や技術とは違ったところに宿るその絵にこめられた依頼主や制作者の願いや状況のようなものを理解して絵を観ると、同じ色や構図でも、そこに意味が出てくると思うのです。

ブレーキランプの点滅がラブストーリーに変わる

住宅街に止まっていた車が動き出すと、ブレーキランプが5回点滅しました。

この表面を見ると、ブレーキランプの色がきれいだねくらいしか感じることができませんが、ドリームズ・カム・トゥルーの1989年の曲『未来予想図Ⅱ』の歌詞「ブレーキランプ5回点滅 ア・イ・シ・テ・ルのサイン」を知ることで、住宅街に送ってもらった女性の姿や、その車に乗っている人の年代などが認識され、そのシーンの前後のイメージがものすごい勢いで立ち上がってきます。

たった30年前のことですら、その状況を見る目を変えることで、その場面のイメージを大きく膨らませることができるわけですから、200年や300年も前の絵を観るなら、もっとその時代の目をもって観た方が、より絵を楽しめると思うのです。

そのためには、やっぱり当時の文化や歴史を理解する必要があって、予習したり復習したりする必要があるので、大変といえば大変です。

ただ、たとえが美術展の入場料が1800円で、見られる絵の数は同じ中で、ただ学ぶだけで得られる情報や情景が増えるわけですから、とてもリーズバブルな遊びだと思うんですよね。

絵画が鑑賞の前に、ぜひその絵が制作された状況や誰が制作を命じたか、などを調べてみてはいかがでしょうか?

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明日は「Food」。辛みについての考察について。

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