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9「隠者」✵「時」が教えてくれるもの

7「戦車」で新たな土地を開墾することに挑戦し、8「力」では実りの可能性を荒らしてしまう野性や本能(戦車を引くには強みだった力)を精神力でなだめてきました。

そして、この9「隠者」では、一旦立ち止まってこれまでのプロセスを独り振り返ります

思考は冷たく乾く

六芒星に導かれて

Pamela Colman Smith, Public domain, via Wikimedia Commons

まずはウェイト版の「隠者」を見てみましょう。
隠者が手にしているランタンには、明るく輝く星が入っています(星のカービィの星みたいでかわいい)。

よくよく見ると星は六芒星「✡︎」の形。
六芒星は四大エレメント、または男性性や女性性の「対立原理の調和」を表します。
※六芒星や男性性と女性性の対立原理が意味するものについては「恋人」のカードでも触れていますので、よろしければお読みください。

井上教子著『タロット解釈実践事典』では、「『火を灯す』という行為は、まさに四大を操ることのひとつ」であり「隠者は輝く六芒星を灯すことが出来る人間」とされています。レイチェル・ポラックは『タロットバイブル』で、この六芒星を「6 恋人」を暗示し「愛と恋愛の関係」への道を照らすのかもしれない、とも述べています。

このように、「隠者」はこれまでのカードで表されてきた男性性や女性性などの対立原理や精神性の統合を表し、またそこへ導くことができるものを深く考え探しているようです。

しかし、その答えにたどり着くにはどのように思考していけばよいのでしょうか?
対応する占星術のサインや惑星からも考えてみましょう。

占星術の対応

占星術には「昼/夜」乾/湿」「熱/冷」で物事の動きや性質を区分する概念があり、「隠者」は「冷」「乾」の性質を持つ土のサインである乙女座(水星が支配星)対応のカードと言われています。

各性質をざっくりと表すと以下のようになります。

昼 / 夜:公的・外的 / 私的・内的
乾 / 湿:分離・非受容 / 結合・需要
熱/ 冷:上昇・前進 / 下降・後退

こちらの概念を踏まえて、再び先ほどのカードをご覧ください。

先を照らす光を必要とする「夜」の空。
公にはしない、私的で内的な思考です。

孤絶した断崖でただ一人。
周囲から切り離された世界にいるのは「乾」の状態です。また、目を閉じているのは、視覚からの情報さえも自ら遮断しています。

長らく同じ場所で静かに立ち尽くしているため、足元には雪も降り積もっています。
雪は「冷」のイメージを直接的に表し、隠者が下を向くのは「冷」の動きですね。

こういったことからも、静かにひとりで考えや物思いにふける「沈思」や「内省」「自己探求」を表していますが、土サインであることから施行の方向性は、ぼんやりとした「抽象的」な概念ではなく、現実的に形づくり生み出す方法に向かっているようです。

ランタンの六芒星が導く「男性性や女性性の対立原理」の統合や人間の在り方の完成について、隠者は既に「理想的な形」を哲学的に模索する段階ではなく「実現するための方法」を具体的に考えているように思えてきます。

余談:実務的な思考は「乾」と相性がよい

離れる「乾」に対してくっつくのが「湿」の働きで、相手の気持ちを敏感に感じ取る共感、情報のやりとりなどの交流につながります。
しかし、具体的に物事を進める方法や方向性を決めたいときは、「湿」を重視してしまうと、情が移って冷静な判断ができなかったり、溢れかえる情報に惑わされることもあります。一方で、思考の対象、または状況から離れる「乾」の状態は、思考を研ぎ澄ましてくれます。
顔の間近で版画を掘る棟方志功先生の例もありますが、 一般的に絵を確認するときは一度後ろへ下がって全体を見る(対象と距離を置く)ように言われるのと同じです。
思考を整理したいときは、周囲がガヤガヤしている場所ではなく、誰かの意見や音楽を聞きながらでもなく、静かに自分と対話してみるのがいいですね。

「IL TEMPO(時)」

さて、ウェイト版で描かれた「ランタン」は、15世紀後半にイタリア・ミラノ公の指示で制作された「ヴィスコンティ・スフォルツァ版タロット」では「砂時計」でした。また、「THE HERMIT(隠者)」ではなく「IL TEMPO(時)」とされています。

B.Bembo, Public domain, via Wikimedia Commons

白いひげをたくわえ、杖をついた老人であるのはウェイト版と同じですが、こちらは「隠者」のような世捨て人ではなく「賢者」のような雰囲気。

「力」がキリスト教の「七つの美徳」(元を辿ると哲学者プラトンが示した)のうちのひとつ「剛毅」に対応していることを以前 8「力」で解説しました。
「隠者」にはその美徳の「賢明」が対応していることを考えると、ヴィスコンティ・スフォルツァ版の風貌のほうが合っているような?

そして、私が描き続けているオリジナルタロットの主人公(?)は、農耕の神「サトゥルヌス」でもあり時の神「クロノス」でもあります。やはり、隠者を導くものは「六芒星」ではなく「時」の方がしっくりくるんですよね……。

ということで、「ヴィスコンティ・スフォルツァ版タロット」に準じて、「砂時計」verにしました。

「時」が教えてくれるもの

隠者の身を包む古ぼけたマントは、時間の経過を表しています。
クロノスのアトリビュートである大空を舞う翼も今はその羽を折りたたみ、動くことをやめています。

時間(時には死も)を刈り取るクロノスの鎌には、砂時計の光が鈍く反射しています。「思考を邪魔するしがらみを断ち切りたい」そんな想いの自身を支える杖として持っているのか、あるいはこの鎌でこれから刈り取っていくものを思案しているのでしょうか。

それにしても、右も左もないようなこの場所(目も閉じて方角さえ曖昧な感じです)。これから隠者はどこへ向かえばいいのでしょう?

そんな隠者を導くように「砂時計」が輝いています。

上の部分はほぼ空(から)。
ここに立ってから長い時間が経ったのかもしれません。
年老いた隠者に残された時間が少ないことを表しているのかもしれません。
しかし、砂時計に溜まった砂(=過ぎ去った時間)は煌々と光を放っています。

隠者のこれからの道や心を照らし出し、進む指針となるのは「過去の時間」です。そこには新たな道に進むためのヒントがあるはずです。
ゆっくり立ち止まり、「時間の流れ」の中で得たもの、または時間を経ることでしか得られないものを振り返るよう促しています。
長年かけて培われた経験や体験、技術、年齢を重ねて得た知恵や知識は、進むべき道を照らしてくれる何事にも変えがたい「光」となるでしょう。
また、そのような知恵や知識、経験を積み重ねていく大切さも教えてくれています。

この光は隠者の手にありますが、隠者自身の内側からのエネルギーによって灯されているようにも考えられます。

逆位置になると、砂時計が未来と過去が逆になるのも面白いですよね。
砂が戻る→これまで溜めてきた砂(経験)を活かす、再び時を戻す、静止から再び動き始める、逆転の発想、過去の経験や知恵に固執する(反対にとらわれない)などの解釈もできそう。

時の流れー若者と老人

レイチェル・ポラックは、ユングのアーキタイプ(元型)にある対極に位置する人物像のカードとして、「0 愚者」「9 隠者」をそれぞれ「永遠の少年」と「老賢者」に見立てています。

左:愚者=永遠の少年(の気持ちを持った老人w)
右:隠者=老賢者

隠者の砂時計と異なり愚者のそれはまだ砂さえ落ちてない状態で、物語の始まりを予感させるものになっています。服も鎌も新しく軽やか。
一方、隠者は歳を重ねた思慮深さや落ち着きがありますね。
自分でも描き始めた頃を思い出し、「時の流れ」を実感します。

こうして時を重ねながら、物語は進んでいきます。
隠者の知恵によって、今後どんな豊かさがもたらされるのでしょう。

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